citron voice

詩人・そらしといろのブログ~お仕事のお知らせから二次創作&BL詩歌まで~

千夜一夜

2007-11-09 11:59:30 | つくりばなし
まあるい小さな日向に散らばるトランプ。
とうに過ぎた温かい日々は幾何学模様のカードに刻まれた皺や折り目であって、そっと触れる度にきらきらと蘇るのだ。



異国土産のビスケットと甘く香るココアを囲んで、いくつかの夜長を、テーブルをはさんで過ごした。
アルコールランプの、まあるい小さな灯りの下。まだ新しいトランプが幾何学模様に並んでいた。
カードをめくる指は、ホワイトショコラを思い出させる。その指先を彩るのは、チェリーキャンディに似た色の儚げな爪だ。

ただ数字と絵柄を合わせていくだけのゲームなのに、何度でも繰り返してしまう。
だから、あの日は一枚だけカードを隠して、ゲームを始めた。
枚数が少なくなって、奇数枚だけ残ったのを疑いの目で見つめながら、カードがなければ出会えない、そう吐息のように呟いたのを聞いた。



出会えなかったハートの女王は、ホワイトショコラの指に包まれて異国へ旅立った。
未だ隠し持っているスペードの女王は、ランプの下で一人待ち惚け。

いくつもの夜長が過ぎて朝を迎えても、ゲームは終わらない。
日向に散らばるトランプに落ちた、シクラメンの葉の影。皮肉なほど形の良いハート形していて、あるはずのない幻影に手を伸ばした。
また夜が来る。