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日本文化・逆説の魅力

2013年11月15日 | 遊牧・牧畜と無縁な日本
◆『日本とは何か―近代日本文明の形成と発展 (NHKブックス)

引き続き、上の本でも語られている梅棹生態史観に触発されて思ったことを語るが、その前に今読んでいる、まったく毛色の違う本に少し触れる。櫻井孝昌・上坂すみれ共著の『世界でいちばんユニークなニッポンだからできること 〜僕らの文化外交宣言〜』だ。この本について詳しくは、追って取り上げるつもりだが、この中でも櫻井は、日本のポップ・カルチャーが世界に広がるとともに世界でいちばん知られるようになった日本語が「カワイイ」であることを強調している。

私はかつて、日本の「カワイイ」文化は、おそらく一神教的な父性原理の文化とは正反対の、アニミズム的ないし多神教的な母性原理の反映であり、一表現ではないかと指摘したことがある。「かわいがる」という動詞からも連想されるように、「カワイイ」という表現の大元には、母性愛的な感情がある。遠く縄文時代に源を発する母性原理的な文化が日本に息づいていることと、現代の「カワイイ」文化の広がりとはまったく無関係とはいえない。少なくとも父性原理が強い文化のもとで、「カワイイ」文化が生まれ育つことはあり得なかったはずだ。

日本が、農耕文明以前からの母性原理的な文化を破壊されず、それを基盤としながら、一方で西北ヨーロッパとよく似た歴史的な歩みを経て独自に近代を準備し、西洋との接触をきっかけに速やかに近代化を達成したことは、人類の歴史上でも、奇跡的なことなのかもしれない。そこに日本文化の逆説と魅力がある。

ユダヤ・キリスト教を基礎とした父性原理の文明とは最も遠いところに位置しながら、一方で他の非西洋諸国に先がけて近代化していった日本。そういう奇跡的な基盤の上に「カワイイ」文化も花開いたのろう。縄文的な心性を現代にまで残してきた日本文化のユニークさは、世界のどの文明もかつてはそこから生れ出てきたはずの、農耕・牧畜以前の文化の古層を呼び覚ますのだ。

さて、ではなぜ日本では、農耕以前的な母性原理の文化が破壊されず、現代にまで引継がれてきたのか。この問いについては、日本文化のユニークさ8項目のうちの、以下の項目に関する記事で追求してきた。それぞれの項目についての代表的な記事をリンクしておくので参照されたい。

(3)ユーラシア大陸の穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とも言うべき文化を形成し、それが大陸とは違う生命観を生み出した。
 →日本文化のユニークさ40:環境史から見ると(2)

(4)大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した言語や文化の継続があった。
 →異民族による征服を知らない民族:侵略を免れた日本01

(7)以上のいくつかの理由から、宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなく、また文化を統合する絶対的な理念への執着がうすかった。
 →森の思考と相対主義(日本文化のユニークさ総まとめ04)

(8)西欧の近代文明を大幅に受け入れて、非西欧社会で例外的に早く近代国家として発展しながら、西欧文明の根底にあるキリスト教は、ほとんど流入しなかった。
 →キリスト教を拒否した理由:キリスト教が広まらない日本01

《関連記事》
日本文化のユニークさ8項目
日本文化のユニークさ04:牧畜文化を知らなかった
日本文化のユニークさ05:人と動物を境界づけない
日本文化のユニークさ06:日本人の価値観・生命観

《関連図書》
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ユダヤ人 (講談社現代新書)
驚くほど似ている日本人とユダヤ人 (中経の文庫 え 1-1)
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
一神教の誕生-ユダヤ教からキリスト教へ (講談社現代新書)
旧約聖書の誕生 (ちくま学芸文庫)
蛇と十字架・東西の風土と宗教
森のこころと文明 (NHKライブラリー)
一神教の闇―アニミズムの復権 (ちくま新書)
森を守る文明・支配する文明 (PHP新書)

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