御託専科

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「『丸山眞男』をひっぱたきたい」への応答 -論座2007年4月号-

2007-03-05 23:30:47 | 書評
論座などという雑誌は朝日新聞社というだけで前々から毛嫌いしていたが、最近話題の「『丸山眞男』をひっぱたきたい」を掲載した雑誌だし、今度はそれへの応答を特集しているというから買った。

まずは「応答」から。こりゃだめだ、と言うのが最初の感想。「丸山眞男をひっぱたく」とは階層の逆転の実現であり、「戦争」とはそれを可能にする現秩序の崩壊の契機である。丸山眞男と肩を組みたいのではない、丸山が私をひっぱたいたように、私も丸山をひっぱたきたい、そんな秩序の逆転を希求する、そこで左翼はアテにならない、既存秩序の擁護者だから。そんなことを赤木氏は言っている。

それなのに、「フリーターが戦争に行かされる」だの(福島みずほ)、戦時にも金持ちは得をした(斎藤貴男)、だの、なんだそれは?赤木氏は秩序の抜本的見直しを望んでいるのであって戦争を望んでいるのではないぐらいのことはわからんのか?
森達也は「30代の健康な男なら、少なくとも東京でアパートを借りて暮らせるだけの仕事を見つけることは不可能じゃない。いやそれほどむつかしくはない。」と言った時点でアウト。そのあともなんだか説教じみている。そういうのならちゃんと紹介しろよ、仕事を。そのあとでなら説教は少しはつきあってやるさ。若松孝二。「長い人生、1回や2回刑務所に入ったってどうってことはない」。あーあ、学生運動世代の典型的甘えだなあ。いまから国会でもどこでもけしからんと思うところに乱入してつかまって見たら? 奥田紀晴。赤旗編集局長。「君」と呼びかけた時点でもうだめ。ばかもの。佐高信。論旨が飛びすぎてるので一言で言いにくいな。ま、ピンボケ。

さて、あとは爺さん2人。鶴見俊輔。もうろく?「情報技術を学べばよかった、今頃よのなかは自由自在だよ」と言っているのは支離滅裂。冗談なら大外れ。そのあと共産党がどうのこうのは論旨とは関係ない。これももうろくか?最後の「ハケンの品格」のファンというところはぐっと共感が持てた。また、ずっと「赤木氏」と読んでいることには少し見直した。が、結局ストレートには答えていないなあ。
吉本隆明。これも話し飛ぶんだよね。結局自分の土俵の話になっている。

まあまともに思えたのは鎌田慧だけ。低賃金労働の現場を知るだけあって正面から受け止めている。得意分野が噛み合った、という面もあるが、誠実な回答だな。

赤木氏の論説は、実は古典的階級闘争の主張である。ブルジョアは打倒されなければならない、無産階級よ、立ち上がれ! 秩序よ、逆転せよ! という咆哮である。左翼言論人にとってはキリストのような人(マルクスはパウロってことにしよう)が再来している。「戦争」という表現をとったからと言ってそこにちまちまこだわるのは、キリストのレトリックの細部を云々しているのと一緒だ。ばかなことを言ってはいけない。
左翼言論人よ、あなたがたのキリストがやってきたのだ。原点を唱える人だ。だから尋常ならざる覚悟と緊張感を持って論議するべきである。あなたがワイドショーのコメンテイターよりはましな存在であるというのなら。もしあなたが「左翼教」でないことを自覚したなら弾圧に回るもよし。ただし事前に立場を鮮明にしてからである。「私は赤木氏のような立場の人を救うべきだというつもりは全くありません」とね。それが恥を知るということだ。

それにしても、労働関係法規の改正が保護のない無産階級的階層を生み出してしまったのだ。それなら、また革命を起こすしかないよね。派遣労働者とフリーターは団結してね。左翼の人たちにとっては絶好の活躍の場なんだけどなあ。総御用組合化してんのかい?論座の言論は圧倒的に第二組合つぶしって感じだったよなあ。少しは頑張らないかい?って言いたくなる。ていうか、頑張って欲しいのだがなあ。


さてさて、論座の他の記事。特集は「グッとくる左翼」だってさ。うん、面白い。「素人の乱」、いいよね。法政大学出身の松本さんという人が主催する、「抗議する無産者」ではなく「勝手に楽しむ貧乏人」なわけだ。雨宮処凛の記事とそのあとのルポはすごく面白かった。でもそのあとの論考と合わせて考えるとやっぱりこれは左翼としては失敗。「グッとくる貧乏人」はいたんだけど、それは左翼と関係ないことが確認されたし、そのあとの論者たちの主張は従来型左翼の行き詰まりと新時代への混迷を印象付けるだけだ。まるで諸君!の「左翼は死んだ」特集かい、と思ってしまうぐらいである。

ところが、である。赤木氏を引っ張り出してきた論座のことだ、こういう特集を組むことで主要読者である左翼言論人にある種強烈なメッセージを送っているのかもしれない。先ほどの「応答」にしても、主要な言論人がいちフリーターの主張にこんなへなちょこな反論しか出来ない、というのをあからさまにさせている。また、同じ号では麻生外務大臣にインタビューしているが、記者が大臣に軽妙に手玉にとられている様子をがそのまま載っている。
トータルすると、左翼言論人の情けなさが露骨に見えてしまう。それが何を目指しているのかはわからないが、どうも左翼のばかさを曝す、という意図は鮮明な気がする。

3/9/07
・2-3の誤字脱字手直し



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