御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

「贖罪」 湊かなえ

2009-08-02 23:05:31 | 書評
うーん、これは。ちょっと書くピッチが早すぎたのか。「告白」や「少女」の面白さはないなあ。「告白」も「少女」も、それぞれの独白・告白で明らかになってゆく事態の展開・推理の妙味の一方で、感心させられる考え方や感じかたがその中に含まれており、それが色彩として非常に面白かった。

じゃあ今回はないかというとそういうわけではない。東京から来た同級生の少女の死に立ちあった4人の少女のそれぞれが独自の歪みを抱えており、それが同級生の母親に脅されて、というかやり場のない怒りをぶつけられて、それぞれの歪みがそれぞれに「発達」してゆく。それはそれで興味深い。しかしいかんせん書き込みが十分出来ておらず、歪みのすごさなり実感なりが染み渡らない。もう少し長めにしても良かったのではと思う。

上述の東京から来た少女の死に加え、4人の少女が長ずるにつれそれぞれ事件(と死んだ少女の母親からの脅迫的対応)の傷跡のお陰で人を殺してしまう。それらが絡んでくるから、東京から来た少女の死の真相、それと密接に絡む少女の母親と少女の真の父親との関係などの複雑な謎解きというメインストーリーがややかすんでくる。5人ひとが死んでそれがそれぞれの複雑な歪みと事情の結果であるのだから、おそらくもう少し長く、あるいは2倍ぐらいまでしっかり書いてちょうどよかったのではなかろうか。そうすればドストエフスキーだとか桐野夏生クラスに仕上がったかなあと思う。

骨格はいいのでちょっと残念だったな。

で、思い立って桐野の「グロテスク」チラッと見たが、いやこれはすごい。とくに和恵が娼婦に身をつやし、その中でも更に更に堕ちてゆくところ、本人の心理描写も含めすごいなあ、と思った。

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