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浜井浩一「2円で刑務所、5億で執行猶予」

2009-10-29 21:19:44 | 書評
「犯罪不安社会」も前に読んだ。浜井さんは多面的でバランスが取れていて、しかし主張に柔らかな芯がとおっているすばらしい犯罪学者である。
表題は、小室のようなセレブは大詐欺をしても人脈や資産があるから弁償したり立派な弁護を受けたりして5億だましても執行猶予がつくのに、そうしたことのない貧しく貧相な人は2円の盗みでさえ実刑になってしまう、という索漠とした現実を語ったもの。
このほかにもいろんな点からいろいろなことが論じられているのでまとめにくいが、印象に残った部分を転記またはまとめておく。ただし、「3丁目の夕日」の頃が実は殺人や強姦のピークで最近はその何分の一課まで下がっているといった、自分にとって既知の話は省略。

ポピュリズムの基本的手法は、わかりやすさと情緒の味付けである。

殺人の検挙率が高いのは8割以上が顔見知りの間で、そのうち4割は家族間で起こるためでもある。

団塊の世代の移動とともに殺人の検挙人員の山が移動しているのがわかる。

皮肉なことに、「最近の若者」を最も憂いている団塊の世代より上の世代が、尤も人を殺しているのである。
(1936-45年生まれ。この世代が、人口比で見ると尤も殺人での検挙者が多い)

プラトンの言葉「最近の若者は、目上の者を尊敬せず、親に反抗、法律は無視、妄想にふけって、道徳心のかけらもない。このままだとどうなる?」

昭和30年代は、些細な理由での一家皆殺し事件が多かった。経済的に余裕がなく、社会全体にゆとりがなかったのである。

家族内殺人は、心理的には自殺と同じような心理機制を持っているとも言われている。ある種の拡大自殺である。

いまや万引きは高齢者の犯罪といっても過言ではないだろう。

(高齢者が狙われるのではなく)キャッチセールスなどに引っかかりやすいのは社会経験は乏しいもののお金は少し持っている20台である。

ジュリアーニの言う割れ窓理論は、オリジナルを拡大解釈しすぎ

エビデンスに基づいた犯罪対策ーキャンベル共同計画

スケアード・ストレイトは再犯を促進する。

ブートキャンプは再犯率を変えない。

被害者の心情を理解させるプログラムは再犯を促進させる可能性がある。
-自己イメージ悪化、やけになる? というのが仮説。

日本で検挙され検察におくられる犯罪者は200万人。

検察の役割は治安の番人ではなく、刑罰の適切な運用、つまり、冤罪を生まない正義の実現ということになる。

200万人のうち98%が不起訴や罰金刑の勝組、2%が負け組。勝ち負けのポイントは財力、人脈、知的能力。

裁判で真実は明らかにならない。

いずれもある意味での価値判断や心証が重要である。・・・専門家の意見は証拠のひとつでしかない。裁判は、科学的な原因の検証や事実の解明の場ではない。多くの人はそのことを忘れている。

法学部のカリキュラムには一般教養を含めて統計学をはじめ科学的な思考を養う科目がほとんどない。

法律の世界はべき論の世界であり価値判断の世界。

158ページ東大ルンバール事件にかかわる最高裁の文書。これは実は具体的には何にもいっていない文章である。

法律家は、法律の専門家、つまり、問題を法的に処理する専門家であって、社会問題を解決する専門家ではない。

二大政党制は対立型なので、危機感があおられやすい。

社会科学において社会現象を説明しようとする場合、個体差以外の一般的な原理で説明を試みるのが原則である。

陪審員の離婚歴のほうが死刑判決に影響しやすい。

アメリカの成人男性の2%は刑務所にいる。

アメリカの法と秩序のキャンペーンの裏には根深い人種偏見がある。