御託専科

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藤原正彦「国家の品格」

2005-12-21 00:21:47 | 書評
藤原正彦氏の「若き数学者のアメリカ」はとても感動的な本だった。それで久々に氏の本を読んでみたわけだが、正直失望した。
ま、「変わった国」になるのがなぜいけない、って主張はもっともだと思うが、かつて存在もしなかった武士道を持ち出してきて世直しの切り札とするのは方法論としてあまりに荒い。また、主張の中核である論理の無力さにしても、それはとおにわかっていることだ。真実の証明は仮言的命題しか出来ない。それをもってして西洋文明を無力とするのはいかがなものか。
氏の言う「情緒と形」に集約される日本的美徳・生き方は自分も大好きだしできるだけそう生きたいと思う。が、それを個人的な主義から社会的あり方へ広げるにはやはり方法論が必要だし、現状の情勢判断と丁寧な歴史認識が必要だ。そのあたりを論じるなら喜んで論じたいが、日本の美徳を列挙するだけなら選民思想を喧伝する書に過ぎない。
週刊新潮で福田和也氏がこの本を高く評価したのを見てこれもがっくりきた。彼の、該博な知識と強靭な論理構成力と見えたものはいったいなんだったのか。僕は右翼であることは人後に落ちないが、一部の右翼論者の選民思想的日本賛美はただの与太話以上のものではない。