傾城葛城が夫、名古屋山三のために
(無間の鐘)に見立てた手水鉢を打った結果
空から金が降り現世での富を得たが、来世には恐ろしい無間地獄が待っている。
「無間の鐘」の後日談となる「無間鐘新道成寺」(傾城道成寺)
は、本行の能「道成寺」をベースに、鐘入り後の後ジテに
葛城の亡霊を出す、という奇想天外な演出だ。
このところ、江戸の庶民の間では謡がブーム。
能は武士の式楽ゆえ庶民が舞うことはできないが、素謡は許されている。
子供の寺子屋でも「読み書き、そろばん」に小謡(こうたい・一曲の中から抜粋した小段の一節)が加わる。
菊之丞はこの流行をいち早く取り入れたのだが、
後ジテにはお定まりの蛇体ではなく、傾城を出すという
本行の約束事を覆す意外性を狙った菊之丞の計算が、
どんぴしゃり的中した。
〓 〓 〓

photo by 和尚