猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

この世界に残されて

2020-12-26 23:04:47 | 日記
2019年のハンガリー映画「この世界に残されて」を観に行った。

1948年、第2次世界大戦後のハンガリー。ホロコーストを生き延びたものの、
家族を失い孤独の身となった16歳の少女クララ(アビゲール・セーケ)は、保
護者となった大おばにも心を開かず、学校にも馴染めずにいた。ある日クララ
は42歳の寡黙な医師アルド(カーロイ・ハイデュク)に出会う。言葉を交わすう
ちに、彼の心に自分と同じ孤独を感じ取ったクララは父を慕うように懐き、ア
ルドはクララを保護することで人生を再び取り戻そうとする。彼もまたホロコ
ーストの犠牲者だったのだ。だが、スターリン率いるソ連がハンガリーで権力
を掌握すると、再び世の中は不穏な空気に包まれ、世間は2人の関係に対して
スキャンダラスな誤解を抱くようになる。

ナチスドイツにより約56万人ものユダヤ人が虐殺されたと言われるハンガリ
ーを舞台に、ホロコーストで心に深い傷を負った孤独な男女の絶望と再生を描
いた物語。強制収容所で両親と妹を亡くした少女クララは、大おばに引き取ら
れていた。ある日大おばと一緒に行った病院で婦人科医のアルドと出会う。最
初は反抗的だったクララだが、アルドに自分と同じ孤独を感じ取ったクララは
次第にアルドに心を開いていく。2人は親子のように慕い合い、大おばの頼み
によりクララは週の半分をアルドのアパートで過ごすようになる。そんな中ハ
ンガリーはスターリンの台頭により社会主義国家へと向かっていた。
説明がないので初めはわからないのだが、アルドの腕に数字の刻印が見えるシ
ーンで彼がユダヤ人だとわかる。悲しいシーンである。アルドは病院と自宅ア
パートを行き来する孤独な日々を送っている。まるで世捨て人のようである。
一方クララは聡明だが本ばかり読んで真面目に勉強をしないため落第寸前であ
る。ある日クララはアルドが勤務を終えて帰宅するのについていき、そのまま
彼の部屋に上がり込む。お茶を飲みながら、無口なアルドに比べてクララはよ
くしゃべる。次第に2人は親子のような絆を感じるようになる。
アルドとクララの関係は親子のようでもあり恋人同士のようでもある。クララ
がダンスパーティーに出かけようとしている時アルドは「口紅が濃すぎないか
?」と父親のように心配するが、クララは男の子なんてくだらない、と言う。
国民は共産党に入党する者が増えていき、公園のベンチでクララがアルドの膝
に頭を乗せておしゃべりをしていると、入党しているクララの女教師に怪訝な
目で見られ、翌日クララは校長と女教師に2人の関係を詰問される。そしてア
ルドの旧友である医師もまた入党しており、アルドの様子を探るように命令さ
れたことを打ち明ける。夜中にアルドのアパートの前に車が止まり、階段をバ
タバタと昇る足音にアルドとクララが緊張して怯えるシーンは怖い。結局別の
部屋の住人が連行されていくのだが。
クララがアルドのアルバムを見て、彼には妻と2人の息子がいたことを知り、
クララが号泣するシーンはとても悲しい。アルドも収容所で妻子を亡くしてい
たことを、かつては幸せな家庭があったことを知るのである。やがて月日の流
れと共に2人の関係も変化していく。5年後、クララの夫がラジオから流れる
スターリンの訃報を聞いて、「やった!これでどこへでも行ける。アメリカに
だって」とクララを抱きしめて喜ぶシーンは印象的である。独裁者が死んで国
民は希望を抱いただろうけど、その数年後にはハンガリー動乱が起きたことを
私たちは知っている。ハンガリーの悲しい歴史である。それでもラストシーン
のクララの表情は明るく、とてもいい映画だった。


ベル、アップ。












コメント (6)
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