大間原発 建設再開のウラ 矛盾だらけ見切り発車 ・・・(東京新聞)
(東京新聞「こちら特報部」)より
電源開発(Jパワー)は東日本大震災で中断していた大間原発(青森県)の建設を再開した。
安全性を判断する原子力規制委員会の新基準づくりはこれから。
活断層の存在も指摘されている。
そもそも政府が目標とする二〇三〇年代の「原発ゼロ」は無理になる。
矛盾だらけなのに、Jパワーと野田政権が建設再開を急いだウラには何があるのか。
(林啓太、佐藤圭)
「大間原発で事故が起きれば、対岸の函館にも被害が及ぶ。
それなのに、函館市民のことはまったく考慮していない」。
北海道函館市民らでつくる「大間原発訴訟の会」の野村保子さんは憤る。
函館市は津軽海峡を挟んで大間原発と最短二十三キロの距離。
原子力規制委員会は、事故に備える防災対策重点地域を原発の半径十キロから三十キロに拡大する方針を示している。
だが、福島原発事故の際には三十キロ圏外の住民も避難を強いられた。
観光業や水産業などへの悪影響を懸念する声もある。
Jパワーの北村雅良社長は工事を再開した一日、青森県大間町など地元三町村からは「(再開の)理解を得た」と強調したが、対岸の北海道側の方が危機感が強い。
函館市の工藤寿樹市長はJパワーの性急な建設再開に反発。工事の差し止めを求めて提訴する方針を示した。
自治体が原発の差し止め訴訟を起こすのは前例がない。
函館市の近隣自治体や北海道も建設再開には反対姿勢で、対岸の道ぐるみで大きな反対運動に発展しそうな情勢だ。
大間原発をめぐっては、敷地内に活断層がある可能性を専門家が指摘している。
渡辺満久東洋大教授(変動地形学)は、〇四年の建設許可申請で提出された試掘溝の図面を分析。
原子炉建屋の北約二百五十メートル、地下二~三メートルの凝灰岩の地層にある「裂け目」について「十万年前以降に繰り返し動いた活断層だ。
津軽海峡の沖合にある大きな活断層と連動していることが考えられる」と話す。
「マグニチュード7級の揺れも想定される。
最初に弱い地震波を検知してから約一秒で強い揺れが襲い、原子炉では(核反応を抑える)制御棒を動かす余裕もないだろう。
その上、もし建屋の真下にも小さな活断層があり、連動して動いたらアウトだ」
これに対し、Jパワーの野口毅(たかし)広報担当は「敷地内の活断層の裂け目と指摘された部分は、凝灰岩の層を斜めに走る、厚さ数ミリ~数センチの粘土質の地層。
この地層を挟んで片側だけが水を含むなどして膨らみ、盛り上がったにすぎない」と反論する。
渡辺教授は「下北半島の北端部は大間原発にかけて隆起が続いており、津軽海峡の活断層の影響は明らかだ」と主張。「
地下の裂け目が活断層ではない、ということを積極的に証明しようとしないのは、科学的な態度ではない。
Jパワーのずさんな調査は信用できず、建屋の直下に活断層がある可能性は否定しきれない。
調査をやり直すべきだ」
大間原発は、使用済み核燃料を加工したプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を全炉心で使用する世界で初めてのフルMOX原発だ。
使用済み燃料から取り出したプルトニウムを利用するプルサーマル計画で重要な役割を担う。
「フルMOX原発は、シビアアクシデント(過酷事故)対策が非常に難しい。
ウラン燃料を使う普通の原発に比べると、数倍の量のプルトニウムが出る。
事故で飛散すれば内部被ばくは極めて深刻で、事故の結果はより重大になる」
原子力資料情報室の伴英幸共同代表は、フルMOX原発の危険性をこう説明する。
出力は国内最大級の百三十八万三千キロワット。
年間一・一トンのプルトニウムを消費する能力がある。
〇八年五月に着工し、一四年十一月の運転開始を計画していたが、福島原発事故の影響で工事が中断していた。
全工程の38%まで工事が進んでいる。
Jパワーは一九五二年に国策会社として設立され、全国に水力や火力発電所を持つ。
二〇〇四年に完全民営化された。
大間原発は同社にとって初の原発だ。
政府のエネルギー・環境戦略では原発の新増設を認めない方針を打ち出した。
運転四十年で廃炉とした。
ところが、枝野幸男経済産業相は、すでに着工した大間原発などは「現行法令上、(設置許可を)途中で取り消す制度はない」との理由で建設継続を容認した。
伴氏は「法律上、政府に建設を止める手段はないが、三〇年代に原発ゼロを目指す以上、Jパワーに建設中止の協力を求める姿勢が必要だ」と主張。
「大間原発の建設はJパワーにとってもリスクが高い。
原子力規制委員会が来年七月までにつくる新たな安全基準に合致しなければ、建設の再中断や追加工事を迫られることもあり得る」
政府が、大間原発の建設再開を容認したのは、核燃料のサイクル事業との関係が大きい。
MOX燃料は現在、海外に製造を委託しているが、将来は青森県六ケ所村で建設中のMOX燃料工場で生産する計画だ。MOX燃料工場などの運営は東京電力などが出資する日本原燃が担う。
青森県は福島原発事故後、再処理政策の継続を強く要求し、政府もエネルギー戦略に継続を明記した。
青森県は六ケ所村で全国の原発の使用済み核燃料を引き受ける代わりに、「再処理事業が実施できない時は、燃料を工場から運び出す」との覚書を、日本原燃と交わしている。
覚書が行使されれば、燃料が返還され、大半の原発は燃料プールが満杯になって身動きが取れなくなる。
宮永崇史・弘前大大学院教授(物理学)は、県と政府の“さや当て”に冷ややかだ。
「青森県はは事故前、再処理政策について『国策に協力する』の一点張りだった。
ところが事故後、国が原発ゼロ、核燃料サイクル見直しに傾くと、今度は積極的に再処理継続を要求した。
原発関連の補助金欲しさに、本音が出たということだ」
枝野氏は今のところ、着工前の原発に関しては建設を許可しない考えを明らかにしている。
だが、計画中の原発が大間原発と同様に「設置許可」を盾に、なし崩し的に着工することはないのか。
伴氏は「政府は核燃料サイクル事業の帳尻を合わせるために、大間原発の建設再開を認めた。
原発ゼロの声が大多数を占める中、計画中の原発を次々と着工するのは難しいと思うが、警戒を怠ってはならない」と話している。
<デスクメモ>
大間原発の建設再開は、「原発ゼロ」政策の終わりの始まりだ。
いったん完成してしまえば、民間会社がコストを度外視して、稼働中止や早期の廃炉に踏み切ることはあり得ない。
八ッ場ダムと同じで、中止と継続の「どちらが得か」という議論になるだろう。
そこには、安全の議論などない。
(国)
(東京新聞「こちら特報部」)より
電源開発(Jパワー)は東日本大震災で中断していた大間原発(青森県)の建設を再開した。
安全性を判断する原子力規制委員会の新基準づくりはこれから。
活断層の存在も指摘されている。
そもそも政府が目標とする二〇三〇年代の「原発ゼロ」は無理になる。
矛盾だらけなのに、Jパワーと野田政権が建設再開を急いだウラには何があるのか。
(林啓太、佐藤圭)
「大間原発で事故が起きれば、対岸の函館にも被害が及ぶ。
それなのに、函館市民のことはまったく考慮していない」。
北海道函館市民らでつくる「大間原発訴訟の会」の野村保子さんは憤る。
函館市は津軽海峡を挟んで大間原発と最短二十三キロの距離。
原子力規制委員会は、事故に備える防災対策重点地域を原発の半径十キロから三十キロに拡大する方針を示している。
だが、福島原発事故の際には三十キロ圏外の住民も避難を強いられた。
観光業や水産業などへの悪影響を懸念する声もある。
Jパワーの北村雅良社長は工事を再開した一日、青森県大間町など地元三町村からは「(再開の)理解を得た」と強調したが、対岸の北海道側の方が危機感が強い。
函館市の工藤寿樹市長はJパワーの性急な建設再開に反発。工事の差し止めを求めて提訴する方針を示した。
自治体が原発の差し止め訴訟を起こすのは前例がない。
函館市の近隣自治体や北海道も建設再開には反対姿勢で、対岸の道ぐるみで大きな反対運動に発展しそうな情勢だ。
大間原発をめぐっては、敷地内に活断層がある可能性を専門家が指摘している。
渡辺満久東洋大教授(変動地形学)は、〇四年の建設許可申請で提出された試掘溝の図面を分析。
原子炉建屋の北約二百五十メートル、地下二~三メートルの凝灰岩の地層にある「裂け目」について「十万年前以降に繰り返し動いた活断層だ。
津軽海峡の沖合にある大きな活断層と連動していることが考えられる」と話す。
「マグニチュード7級の揺れも想定される。
最初に弱い地震波を検知してから約一秒で強い揺れが襲い、原子炉では(核反応を抑える)制御棒を動かす余裕もないだろう。
その上、もし建屋の真下にも小さな活断層があり、連動して動いたらアウトだ」
これに対し、Jパワーの野口毅(たかし)広報担当は「敷地内の活断層の裂け目と指摘された部分は、凝灰岩の層を斜めに走る、厚さ数ミリ~数センチの粘土質の地層。
この地層を挟んで片側だけが水を含むなどして膨らみ、盛り上がったにすぎない」と反論する。
渡辺教授は「下北半島の北端部は大間原発にかけて隆起が続いており、津軽海峡の活断層の影響は明らかだ」と主張。「
地下の裂け目が活断層ではない、ということを積極的に証明しようとしないのは、科学的な態度ではない。
Jパワーのずさんな調査は信用できず、建屋の直下に活断層がある可能性は否定しきれない。
調査をやり直すべきだ」
大間原発は、使用済み核燃料を加工したプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を全炉心で使用する世界で初めてのフルMOX原発だ。
使用済み燃料から取り出したプルトニウムを利用するプルサーマル計画で重要な役割を担う。
「フルMOX原発は、シビアアクシデント(過酷事故)対策が非常に難しい。
ウラン燃料を使う普通の原発に比べると、数倍の量のプルトニウムが出る。
事故で飛散すれば内部被ばくは極めて深刻で、事故の結果はより重大になる」
原子力資料情報室の伴英幸共同代表は、フルMOX原発の危険性をこう説明する。
出力は国内最大級の百三十八万三千キロワット。
年間一・一トンのプルトニウムを消費する能力がある。
〇八年五月に着工し、一四年十一月の運転開始を計画していたが、福島原発事故の影響で工事が中断していた。
全工程の38%まで工事が進んでいる。
Jパワーは一九五二年に国策会社として設立され、全国に水力や火力発電所を持つ。
二〇〇四年に完全民営化された。
大間原発は同社にとって初の原発だ。
政府のエネルギー・環境戦略では原発の新増設を認めない方針を打ち出した。
運転四十年で廃炉とした。
ところが、枝野幸男経済産業相は、すでに着工した大間原発などは「現行法令上、(設置許可を)途中で取り消す制度はない」との理由で建設継続を容認した。
伴氏は「法律上、政府に建設を止める手段はないが、三〇年代に原発ゼロを目指す以上、Jパワーに建設中止の協力を求める姿勢が必要だ」と主張。
「大間原発の建設はJパワーにとってもリスクが高い。
原子力規制委員会が来年七月までにつくる新たな安全基準に合致しなければ、建設の再中断や追加工事を迫られることもあり得る」
政府が、大間原発の建設再開を容認したのは、核燃料のサイクル事業との関係が大きい。
MOX燃料は現在、海外に製造を委託しているが、将来は青森県六ケ所村で建設中のMOX燃料工場で生産する計画だ。MOX燃料工場などの運営は東京電力などが出資する日本原燃が担う。
青森県は福島原発事故後、再処理政策の継続を強く要求し、政府もエネルギー戦略に継続を明記した。
青森県は六ケ所村で全国の原発の使用済み核燃料を引き受ける代わりに、「再処理事業が実施できない時は、燃料を工場から運び出す」との覚書を、日本原燃と交わしている。
覚書が行使されれば、燃料が返還され、大半の原発は燃料プールが満杯になって身動きが取れなくなる。
宮永崇史・弘前大大学院教授(物理学)は、県と政府の“さや当て”に冷ややかだ。
「青森県はは事故前、再処理政策について『国策に協力する』の一点張りだった。
ところが事故後、国が原発ゼロ、核燃料サイクル見直しに傾くと、今度は積極的に再処理継続を要求した。
原発関連の補助金欲しさに、本音が出たということだ」
枝野氏は今のところ、着工前の原発に関しては建設を許可しない考えを明らかにしている。
だが、計画中の原発が大間原発と同様に「設置許可」を盾に、なし崩し的に着工することはないのか。
伴氏は「政府は核燃料サイクル事業の帳尻を合わせるために、大間原発の建設再開を認めた。
原発ゼロの声が大多数を占める中、計画中の原発を次々と着工するのは難しいと思うが、警戒を怠ってはならない」と話している。
<デスクメモ>
大間原発の建設再開は、「原発ゼロ」政策の終わりの始まりだ。
いったん完成してしまえば、民間会社がコストを度外視して、稼働中止や早期の廃炉に踏み切ることはあり得ない。
八ッ場ダムと同じで、中止と継続の「どちらが得か」という議論になるだろう。
そこには、安全の議論などない。
(国)
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