「中国のスマートフォンでも日本の部品がたくさん使われているんです」──新宿駅西口の家電量販店で、中国人の店員がファーウェイやオッポ(OPPO)の端末を手にして、こう売り込んできた。
中国・上海などの大都市で中国人サラリーマンが使うのはファーウェイやオッポといった中国メーカーの端末だ。有機ELディスプレーや指紋識別機能の搭載など中国製端末の機能は日進月歩で進化している。使い勝手も、筆者が使っているアップルよりずっといい。
IT専門調査会社IDCによれば、2018第2四半期の出荷台数でみた中国市場のスマホのシェアは、ファーウェイ(27.2%)を筆頭に、オッポ(20.2%)、ヴィーヴォ(19.0%)、シャオミ(13.8%)と国産スマホが続く。かつてシェアトップだったアップルはもはや太刀打ちできない状況だ。
スマホの中身も“オール中国”に?
家電量販手の店員が言うように、中国産スマホの中身は、日本企業の部品や部材が数多く採用されている。
中国には、中国メーカーに部品を納入する日系の電子部品工場が数多く存在する。中国の華東地区に進出した日系A社の工場は、ファーウェイに部品を納入し、まさにファーウェイとともに成長してきた。
だが、状況は大きく変わりつつある。A社の中国人幹部によれば、「ファーウェイのスマホの中身は、中国企業が生産した電子部品への置き換えが進んでいる」というのだ。
大きな理由の1つがコスト削減だ。最初は日本企業に部品を納入させて、技術を吸収したら日本企業は“お払い箱”。内製化によってコスト削減というのが、中国メーカーの典型的なパターンだ。
ものつくり大学(埼玉県)の田中正知名誉教授は「機械さえ導入すれば誰でも作れる装置産業では、その傾向はより一層強くなるだろう」と語る。「素材分野はまだしも、電子部品の製造はもはや日本企業だけの“技術”ではなくなった」(同)。
日本メーカーと同様の電子製品を中国メーカーがつくれるようになった今、日系企業が中国産スマホのサプライチェーンにとどまることは困難になりつつある。A社はファーウェイ以外の中国メーカーにも営業をかけたが、取引はしてもらえなかった。
足元では中国企業が追い上げる。英国の市場調査会社IHS Markitによれば、2017年のスマホ用液晶パネルの出荷シェアは、日本のジャパンディスプレイ(東京都港区)が首位を維持したものの、2位に天馬微電子(中国)が浮上し、3位LG(韓国)、4位シャープ、5位BOE(中国)という順になった。有機ELと大型液晶を手掛けるBOEは、2010年以降、政府の資金をバックにディスプレーメーカーとして急成長し、中国全土に巨大工場を続々と立ち上げている。
中国の華東地区で光学機器を生産する工場に駐在した日本人駐在員C氏は、中国企業の猛烈ぶりを間近に見てきた。そのC氏が次のように語る。
「中国企業は『できない』とは決して言わない。日本企業から見れば、彼らの仕事は“やっつけ仕事”でしかないけれど、それでもできてしまうから恐ろしい。果たして中国企業は、日本企業が四つに組んで戦える相手なのでしょうか」
日本の業界関係者からはこんな声が漏れる。「パソコンが“オール中国”でできるようになったのと同じように、スマホも早晩、その時代が来るでしょう」
日系メーカーが次々に蘇州から撤退
上海に隣接する江蘇省 蘇州市は、世界の電子機器メーカーの集積地として知られている。市内の工業団地には多くの下請けメーカーが集まり、中国第二の工業都市としての地位を築いてきた。
その蘇州で、2017年から2018年にかけて日系工場の閉鎖が相次いだ。スマホ向けの中小型液晶パネルでは最大手といわれるジャパンディスプレイは2017年、中国に3カ所あった拠点のうち、バックライトの生産工場である深セン工場と、デバイスの組み立てを行っていた蘇州工場を売却した。
経営再建中のジャパンディスプレイは、「2017年8月の中期計画で、従来までのモバイル事業80%、ノンモバイル事業20%という比率を見直し、モバイル事業を50%にまで下げ、非モバイル事業に力を入れる」(広報)という戦略を立てている。
また、偏光フィルムで世界的シェアを持つ日東電工(大阪市)は、蘇州工場で行っていたモバイル系のプリント基板事業を日本メクトロン(東京都港区)に譲渡し、偏光フィルム事業については中国内の他の工場に移管させることで2018年1月に蘇州から撤退した。
続いて同年8月、液晶バックライトを生産していたオムロンも工場を閉鎖した。オムロンは中国で20の拠点を持ち、電子部品を手掛ける複数の工場を稼働させてきたが、同工場の閉鎖で中国におけるモバイル向け電子部品の製造拠点はなくなった。「今後は制御機器の分野を拡大する」(同社広報)方針だという。
村田製作所のように、中国でさらなる投資を敢行する企業もある。同社は約140億円を投じて積層セラミックコンデンサー(MLCC)の生産能力を増強するという。だが、そうした企業はごく一部ではないだろうか。
日東電工広報は「中国企業は資金力があり、意思決定が速い。同じものが製造できるようになった今、価格競争は持久戦にならざるを得ない」という。特に液晶の分野は、投資を止めると成長が止まると言われる。日本勢は厳しい状況に置かれていると言わざるをえない。
中国市場の不透明感はますます濃厚に
日本では米中貿易戦争に端を発した“ファーウェイの締め出し”が行われようとしている。ところが、ファーウェイの日本企業からの部品調達は5000億円規模に上るとも言われている。ファーウェイ製品を締め出すことで、部品を納入する日本企業が被害を受ける事態も予想される。
中国に工場を構えるある日系部材メーカーの社員は、次のように不安を隠さない。「ファーウェイのCFOが逮捕されたことで、中国市場の不透明感はますます濃くなってきています。まったく先が読めません」
“潮時”を見極めなければならない一部の日本企業にとっては、撤退の「タイムスケジュール」を前倒しするきっかけになるかもしれない。