豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

ツアー登山における天候判断の考察

2009年08月28日 | ツアー登山、ガイド山行
トムラウシの事故は典型的な気象遭難で、その原因はガイドが「天気は午後から回復するから行ってしまえ!」と、ツアーを決行したことにあるのですが、そこでツアー登山における天候判断について、少々書いてみます。






ツアー登山のガイドは当然、悪天候により危険と判断した場合にはツアーを中止したり途中から撤収したりするわけですが、コレがなかなか大変なわけです。

友人同士のパーティなら「さっさと降りて温泉にでも入ろうZE!」で済みますが、ツアー登山のガイドの場合、山の天気について何も知らず、そしてガイド料金等で大金を支払っているお客さんが相手です。「悪天候なので中止しまーす」と言った瞬間に、お客さんからの抗議を受けることが珍しくありません。


もちろん、風がグォォォォォオオオオオ!!!と吹いていて、雨がドバドバ降っていて、ついでに落雷がドンパチしているような状態なら皆さん素直に言うことを聞いてくれるのでしょうが、「悪天候による中止」って、現在は快晴であっても午後から確実に悪天候で行動不能、といった状況でもあり得ます。台風接近なんかがそうですね。

となると、お客さんは「なんでこんなに天気がいいのに中止するんだ!!」と言い出すわけです。



数年前、ガイドをしていた頃に一度、台風の進路が急に変わり、またスピードが速まったために、入山初日の夕方、中止の判断をしたことがあります。

相方のガイドと添乗員とは意見が一致したのですが、お客さんの半分程度は「な、なんだってーーー!!」とお怒りモードです。

「この進路とスピードでは、明日ツアーを継続した場合、稜線の山小屋に閉じこめられます。となると下山が1日以上遅れるのが確実です」と、こちらとしてはマトモなことを説明しているのですが、理解できない人が意外に多いものです。「2~3泊余計に泊まろうが、進むべきだ!」なんてムチャなことを平気で言うお客さんも出てきて、説得に骨が折れました。

この時、稜線の山小屋へのおみやげ用にお酒を3本ぐらい持ってきていたので、「酒を飲ませてごまかすか」ということになり、食堂で宴会を始めてみました。が、ちょっと逆効果だったようで、何人かのお客さんにしつこく絡まれたものです。

翌日、風雨の中をさっさと下山したのですが、危険な予感がしたのでお客さんと一緒に観光バスへ乗ることをせず、適当な理由をつけてその場から逃亡し、自腹で東京に戻りました。

で、後ほど添乗員から聞いたのですが、観光バスが東京へ向かうにつれてどんどん天気が良くなるので、またお客さんが「いい天気じゃないか!!!」と騒ぎ出したのだとか。

この時の台風は長野県直撃コースですから、北アルプスは当然大荒れのはずです。が、お客さんには理解できないのでしょうね。山小屋の横にテレビのレポーターがいて、暴風雨に叩かれているライブ映像でも見ない限り、わからないのでしょう。

そのせいで添乗員は、紅衛兵に囲まれたインテリ中国人のごとく、袋叩きに遭ったそうです。


以上は極端な例、と言いたいところですが、多くのガイドさんと話をしてみると、わりと普通にあるのかもしれません。大なり小なり似たような話を聞きます。お客さんって、ガイドの天候判断をまったく信用していないのでしょうね。

そんなわけで、悪天候による中止を決断する際には、時にお客さんからの重圧に耐えねばなりません。話せばわかる、ということにはならんのです。

そこでガイドの中にはわざと悪天候でも山小屋を出て行き、お客さんのHPが下がったところで「ほら、すごい天候でしょ。引き返しましょう」とやる人もいます。カラダで教えるわけですね。また最近では携帯用の雷探知機「ストライクアラート」を持参するガイドが増えていますけど、これはお客さんに「ほら、雷が接近しているでしょ?引き返しましょうや」とやるのに便利だからです。









お客さんの安全を重視するガイドは、どうしても天候判断について弱気になりがちで、途中で撤退する割合が高くなってしまうわけですが、こうなると、



あのガイドは登頂率が悪い!



という評価をお客さんやツアー会社にされてしまうケースもあるわけですね。決して「お客さんの安全を重視する、いいガイドさん」とはならないわけです。しょせん、そんなもんです。

で、ツアー会社の中には登頂率が悪いガイドに仕事を依頼しなくなるなんてところも実際にあります。まあ、そういう会社とはお付き合いをしないのが賢明なんですけどね。







かくして、「こんな天気でも行くのかよ~、正気かよ~」というツアーを、パトロール中にときたま見かけるわけです。


10 コメント

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Unknown (みっちん)
2009-08-29 09:55:25
 「登頂率が相対的に低いガイド」=「顧客を危険な目に会わせない優れたガイド」という風に認識を改めることができないんでしょうね。仕事で登ったことがないので、幸いそういう目にあったことはないです。

# 私が書いたトムラウシ山の記事ですが
# フリーメールアカウントを使った脅迫が耐えないので
# 家族の安全のために削除しました。
# トムラウシ山のケースであることが重要ではなかったんですけどね。
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Unknown (bongo-pete)
2009-08-29 19:27:15
単純に言ってしまえば、ツアー会社は初心者を大量に連れて山を歩く怖さを理解していないのです。
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解決策にはならないが・・・ (たぬたぬ)
2009-08-31 10:57:21
ツアー登山の参加申込時に、
・ガイドの天候判断に絶対服従することを誓約させる
・予備日を設ける(とうぜん参加費も上げる)
・予備日を使わなかったら返金する

次に、山麓までのツアー料金と登山行動中のツアー料金を分離する(無理だろうけど)
・登山開始前に装備/体調チェックをし、不備のある人はガイドしない。(ガイド料金なし)

ってことでよくないですか?だめですか・・・
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Unknown (bongo-pete)
2009-08-31 11:23:38
たぬたぬ様

いずれ提言をまとめようと思っているところなのですが・・・・・・

>ガイドの天候判断に絶対服従することを誓約させる

大切なのは理解して納得してもらうことなんですよね。ちゃんとしたガイドならお客さん全員が反対しようが、自分の判断を変えるなんてことをしません。当然と言えば当然なのですが・・・

>予備日を設ける(とうぜん参加費も上げる)

通常は日程の中で半日のみ行動する日を設けるなど、スケジュールを緩めにすることで対応しています。天候が悪い場合、当日は早めに行動を打ち切って翌日の出発を早めるといった対応ができるからです。ほとんどのケースにおいて、それで十分だと思います。

天候がどうしてもダメな場合にはエスケープするのが普通であり、早め早めに判断するのがツアーガイドの仕事なんですね。

>山麓までのツアー料金と登山行動中のツアー料金を分離する

ちょっと意味が判じかねるので、詳細な説明おねがいします。

>登山開始前に装備/体調チェックをし、不備のある人はガイドしない。

体調については、ぱっと見て顔色を観察する以上のことはできません。ドクターではないですから。

装備についてですけど、入山前に本気で検査していたら時間が掛かりすぎるでしょうね。個人で集客しているガイドならともかく、ツアーだとお客さんが多いですから。装備は事前にツアー会社のほうで入念に説明して、責任をもってチェックすべきです。当日「ダメですね」なんてガイドがやってしまったら、業務上いろいろメンドウなことになると思います。
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Unknown (ミリ)
2009-08-31 13:53:20
トムラウシは、客の数人が不安を感じていたにもかかわらず"ガイドの「天候は回復する」という天候判断に服従"してあの大惨事が起こったわけですが、bongo-pete様はこの件に関してどうお考えでしょうか。
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Unknown (bongo-pete)
2009-08-31 15:48:33
お客さんが本気で危険を感じていたのなら、「私はヒサゴ沼避難小屋に残ります」といって、天候回復してから自力で下山するしかないでしょうね。
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Unknown (たぬたぬ)
2009-09-01 09:52:34
どーもです。拙幼な書き込みでスミマセン。

ツアー登山(小屋泊)の場合、半日行動日を予備日代わりにできるんですね。小屋泊だからこそできる技とも言えるかも。テン泊だとテン場に行くまで休めないですからね

ツアー料金の分離の意味は、登山口で入山前に撤退しちゃうと、登山口までの移動費を返金しろ!とかって言われそうじゃないですか?
まあ一番いいのは現地(登山口)集合、現地解散、なのかも。

装備チェックは、ツアー参加申込後に、パンフレットなり講習会をやって、前もって入念に念を押すべきですよね。

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Unknown (bongo-pete)
2009-09-01 13:54:20
たぬたぬ様

>ツアー料金の分離の意味は、登山口で入山前に撤退しちゃうと、登山口までの移動費を返金しろ!とかって言われそうじゃないですか?

了解です。

ツアー登山の場合、登山口で撤退しても料金がまるまる返金されるわけではありません。山登らなくてもガイドと添乗員の日当がかかるわけであり、通常、その分まで返金することはないですね。

ガイドはもちろん請負ですが、添乗員もほとんどが派遣です。そんなわけで、ツアー会社としてはどんな状況であれ、日当分はお客さんからもらうでしょう。


>ツアー登山(小屋泊)の場合、半日行動日を予備日代わりにできるんですね。

もちろん、やたらときついスケジュールの会社もありますよ。
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ガイドの金銭都合優先? ()
2018-03-02 23:48:09
ツアー行ってみたいですが、自分の意思と違う方に決まると困りますからねー。
行く、行かないどちらの立場であれ。
全額は無理としても、部分返金は必要でしょう。
客の立場なら納得しないのも理解すべきです。
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Unknown (bongo-pete)
2018-03-03 04:15:50
い様

一部の返金は当然ありますよ
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