豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

白馬大雪渓の現状

2007年08月30日 | 白馬岳など北アルプス北部ネタ
危険なコースという印象がすっかり定着してしまった白馬大雪渓について、一気に語ってみたいと思います。




上の画像は白馬尻小屋に設置されたものですが、今年から白馬岳周辺の山小屋にはこのようなポスターが貼られるようになりました。クリックで拡大します。




落石について、かなり踏み込んだ内容で注意を促しています。これまでは積極的に注意を促すような看板は出していませんので、大きな変化だと思います。


また猿倉や白馬尻には「トレッキングと登山について」という看板が登場しました。要約しますと、白馬尻の上にあるケルンから先は「登山」のエリアであり、それなりのリスクがありますよ、ということです。クリックで拡大します。




今年になってこのようなポスターや看板が登場した背景には、昨年の落石死亡事故があります。西東京市が主催したツアーに参加した客が大雪渓下部で落石に当たり、死亡した事故です。この事故は裁判になり、現在も公判中のようです。

白馬大雪渓は白馬村にとって大事な観光資源であり、また白馬村を代表するイメージです。それだけに、これまでの地元の対応はどちらかというと「落石にふれたくない」という感じであり、当時の状況ではこのように登山者に対してわざわざリスクを知らせるようなことをするなんて想像できませんでした。

これはいいことだと思っています。日本では「自然の中でのリスク」という概念があまり広まっていないと言われていますが、登山のテキストや山岳雑誌にちょこちょこ書いてあるだけでは誰も知りようがありません。これを契機に他の山域でもリスクを周知させるようになればいいのではないでしょうか。




で、次に大雪渓における実際の落石状況について・・・・


大雪渓の落石が注目されるようになったのは、2年前に起きた大崩落です。翌年には白馬主峰側でも土砂崩れがあり、けが人はなかったものの、ニュースで流れました。これにより登山者の間で大雪渓を敬遠する動きがあり、特にツアー登山は減少しています。

2年前に崩落が起きた地点からは、現在も頻繁に落石が発生します。ただしそのほとんどは雪渓上の赤いラインには届きません。紅殻のラインはけっこううまく引いてあるもので、一日中見ていると、スレスレでラインの手前で落石が停止しています。まあ、時々ラインを越えるものもありますが・・・・

そこから発生する落石の場合、最初にガレ場を走りますので、大抵はハデな音が出ます。また葱平取り付き周辺は大量の落石が雪渓上にあるので、落石が通過する時にそれらの石と衝突して激しい音を出します。

よく雪渓上での落石は音がしない、と言いますが、大雪渓上部については当てはまらない例が多いですね。杓子側からの落石については、視界があるときは気づきやすいと思います。それより恐いのは大雪渓下部の2号、3号雪渓から飛んでくるヤツで、こちらは音が聞こえない場合があります。昨年の死亡事故も大雪渓下部で発生したものであり、こちらは視界がないと恐いです。ただ大雪渓下部の落石は、杓子側からの落石と比べて頻繁にあるものではありません。

ちなみに大雪渓下部の落石は昔からあるもので、大崩落とは切り分けて考えるべきです。



私は大雪渓は安全ですよ、と言うつもりはありませんし、かといって危険だからオススメしないとも言いません。ただデータを挙げるなら、今年のパトロール期間中、約1万人が大雪渓を登り、その間、雪渓上で落石に当たった人は1人もいません。シーズン直前、韓国人ツアーに参加した登山者に落石が当たっていますが、それを含めても事故率は1万人に1人というところでしょうか。そのリスクを受け入れるか否かは、あなた次第です。



と、ここまで書いたところで、大雪渓をどうしても(なるべく安全に)登りたいという人のために、リスクを減らす登り方を伝授しましょう。

第一に、8月に入ってから登ることです。8月の第1週を過ぎる頃になると大雪渓から葱平に取り付く地点の雪がズタズタになるため、「秋道」を作って登山者を誘導します。この秋道は白馬主峰側へ高巻いていく道なので、杓子側からの落石が飛んできません。ここを通るだけでもかなりリスクが減ることになります。

この秋道にも落石危険箇所があり、特に沢筋に橋が架かっている地点はちょっと恐いです。絶対に途中で休憩したり立ち止まったりしないでください。

第二に、雨が強い時は通らないことです。

第三に、雪渓上で長居しないことです。時期が遅くなれば大雪渓に通称「砂山」という島が現れ、雪渓歩きはここで終了になります。白馬尻からここまでゆっくり行っても1時間~1時間半程度です。砂山が出現する時期に大雪渓を登れば、雪渓上にいる時間を短くできます。

第四に、葱平取り付きを速やかに通過することです。時期が早いと大雪渓から直接葱平に取り付きますが、ここでアイゼンを脱ぐためにのんびり座り込んだり、休憩しないことです。アイゼン履いたまま少し上の草付き帯まで登るか、アイゼンをはずしたら手に持ったまま登ってしまうことです。この地点は両サイドから落石がありますので、のんびりしてはいけません。


↓この記事が参考になる、面白い、と思ったときはクリックしてください。ランキングサイトです。↓
にほんブログ村 アウトドアブログへ


2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
心配してました (村長)
2007-08-31 22:56:44
御無沙汰してます。
お仕事からご無事でお戻りの様で‥
大雪渓の落石での被災者は今年は7月当初だけで済んだみたいですね‥
なにはともあれ良かったです。
貴殿が常駐隊に上がる前に、大雪渓について聞いて見たかったのですが、既に別Blogに引越しをしていた様で‥
産業道路としての大雪渓は色々な問題を含んでいると思います。
山で飯を食べているヒト程話題にしたがらない様な気配があり残念に思ってました。
今年は怖くて大雪渓に近寄りませんでしたが、上記の様な掲示が出来たのは一歩前進(何に?)ですね‥。
情報の提供は必要の事と思います。
更に二歩目がある事を希望してます。
返信する
Unknown (bongo-pete)
2007-09-01 01:34:59
今シーズンは人手不足の関係で大雪渓パトロールが多かったのですが、おかげでいろいろ知見を得ることができました。

2年前の崩落でレスキューに出て以来、大雪渓に対する恐いというイメージはあるのですが、今シーズン大雪渓を見つめ続けているうちに「うまくやれば、それほど恐れることはないかも」と考えるようになりました。

大雪渓は確かに落石のリスクが高いのですが、本文で書いたような注意事項を守っていればかなり安全率が高くなると思っています。
返信する