その昔、大好きなゴルゴ13を読んでいた時のことです。
そのストーリーはヒマラヤを舞台にしたもので、中国軍特殊部隊が高所でゴルゴ13を追跡するシーンが出ていました。で、ゴルゴ13を発見した隊員が慌てて動こうとしてなぜか高山病になり、ゲホゲホと苦しそうな状態になります。すると特殊部隊の隊長が「高山病にかかった。どうせ助からない」てな感じでイキナリ部下を射殺したのです。
高所ではゆっくりと行動すべし、という高山病予防の原則が、なぜか「高所で急激に動くと高山病になって死ぬ」みたいになっているわけですね。
「なんじゃ、そりゃーーーー」と思った私は、その先を読むのを止めました。見ちゃいられない、って感じです。作者は高山病のことをまったく理解しないまま描いていたのですね。
先日マンガ大賞を受賞した石塚真一氏の「岳」にも、似たようなシーンがありましたね。雪洞でビバークしている2名の遭難者のうち、ゲホゲホやり始めた方の遭難者を置き去りにして元気な方を担いで下ろしていくわけです。ようするに肺水腫にかかったからもうダメ→可哀想だけど置き去り、という論法なのですが、それはちょっとマズい気がします。まだ意識がしっかりしているのだから、そんな簡単に死なないって。肺水腫だからイチかバチかで無理矢理下ろす、というのならわかるのですけどね。
と、前置きが長くなりましたが、つい先日、「岳」の3、4巻をうっかり購入して読みました。以下の文章は重箱の隅を楊枝でほじくるような非常に細かいツッコミの連続なので、「岳」の大ファンだという人はさっさとブラウザを閉じてください。
◎第1巻第0歩
遭難事故を担当するのが地域課だと描かれているのは素晴らしいです。が、北穂高岳で発生した事故を長野市内の警察署が担当してはいけません。なぜなら、槍穂高連峰の長野県側は松本警察署のナワバリなのです。槍ヶ岳以北の北アルプス長野県側は大町警察署、常念岳や燕岳周辺も東側は安曇野警察署のナワバリです。また北アルプスの西側は岐阜県警や富山県警のナワバリというわけで、けっこうこまかく分かれています。
◎第1巻第2歩
私はまったく経験ありませんが、ゾンデ棒使った捜索って、もうちょっと規則正しいものだと思います。
◎第1巻第3歩
アイゼンを持っていない登山者に主人公がアイゼンを貸すシーンがありますけど、雪山にアイゼンとピッケル持たずに入山するようなレベルの登山者は追い返すべきですね。
◎第1巻第4歩
ヘリコプターに遺族の方が乗って現場に駆けつけるというのは、ちょっと考えられないですね。まあ、それはいいとして、主人公がいきなりお父さんに殴られていますけど、現実の世界ではそういう理不尽なことはやめたほうがいいですよ。山の関係者って、腕っ節の強い人そろっていますし。
◎第1巻第5歩
ヘリコプターに今度はお母さんが同乗です。う~~~む。
前にも書きましたが、遺体は機内に収容できないなんて決まりは無いと思いますよ。3回ほどヘリコプターによる遺体収容の現場を目撃というか当事者になっていますが、うち2回は機内収容です。だいたい、機体にぶら下げて飛ぶってのは、普通に考えたら空気抵抗の増大を招くので無意味です。
おそらくは、旅客機なんかでは遺体を客室に入れられないという航空会社の規定と混同しているような気がします。
◎第1巻第6歩
ロープワークがよくわからんです。
2人を同時に吊り上げるのって、けっこう大変だと思います。以前、警察の訓練で女性の県警隊員を背負ったまま小柄な男性を吊り上げる、ってのをやりましたけど、この時には1/3吊り上げシステムを2セットつかって7~8人で引っ張りました。けーさつの人によると、これで1/9吊り上げになるそうです。で、腕力に自信のある小屋番関係者ばかりで引っ張りましたけど、えらく時間が掛かりましたね。
◎第2巻第1歩
花を採ってはいけません。
◎第2巻第2歩
小学校の学校登山で北アルプスって、あまりないよね。
◎第3巻第0歩
いつも思うのですが、主人公はちゃんとキャンプ指定地にテントを張っているのでしょうか。アナーキーなクライマーならまあ許せるとして、山岳救助活動に関わる人間がキャンプ指定地意以外でテントを張るのはちとまずいかもよ。
ちなみに指定地以外にテントを張ると、時々やっかいなことになります。たまたまテントを離れて水くみに行っている最中に他の登山者が「無人のテントがある!遭難じゃないか?」なんて通報しちゃったりするので、少なくとも北アルプスの夏山とかではちゃんとしたところに張りましょう。
あとエベレストへのアタックシーンの回想がありますけど、これも何か変です。無酸素狙う人間が、酸素ボンベを隠し持ってはいけません。というか、普通は重いから持ちません。
◎第3巻第1歩
遺体を岩壁から落とすシーンがありますけど、今はやらないような気がします。昔はけっこうあったそうですが、その場合毛布にくるんでからガツガツに縛り上げます。独特の縛り方なので、テキパキとできる人を見ると怖いです。マジで。
◎第3巻第3歩
次の第4歩もそうですが、このマンガにはヘリコプターが現場で着陸しているシーンがたくさん出てきます。が、実際には着陸できるほどのスペースって北アルプスにはなかなか無いのです。第一、山小屋に併設しているヘリポートでさえ着陸しないことが多いのです。
◎第4巻第0歩
どちらも重体だという現場が2件あり、どちらを優先するか、というのがテーマなのですが、このケースは難しいことはありません。頸椎骨折ならひとりでレスキューできるもんじゃありませんから、結局大人数の救助隊が必要です。主人公ひとりが飛び回っても意味ないのです。
この場合は両方の現場に同行者がいて携帯による連絡も可能ですから、主人公がやることはただひとつ。両方の現場の位置をしっかり確認することだけです。
◎第4巻第2歩
滑落停止訓練がちょっと変。
◎第4巻第3歩
遊覧飛行はまずいかもしれない。
◎第4巻第6~8歩
某民間ヘリコプター会社をモデルにした話ですな。
亡くなった「神様」のためにも書いておきますが、経験の少ない女の子を現場に放りこんでおいて自分はヘリコプターから指示を出すだけ、なんてことはしませんよ。どんな現場でも真っ先に突っ込むのが「神様」であり、そうでないとあれほど尊敬されないでしょう。
口先三寸でレスキューするのはこの私の得意技であり、脅したりすかしたりごまかしたり下手にでたりと何でもやります。
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そのストーリーはヒマラヤを舞台にしたもので、中国軍特殊部隊が高所でゴルゴ13を追跡するシーンが出ていました。で、ゴルゴ13を発見した隊員が慌てて動こうとしてなぜか高山病になり、ゲホゲホと苦しそうな状態になります。すると特殊部隊の隊長が「高山病にかかった。どうせ助からない」てな感じでイキナリ部下を射殺したのです。
高所ではゆっくりと行動すべし、という高山病予防の原則が、なぜか「高所で急激に動くと高山病になって死ぬ」みたいになっているわけですね。
「なんじゃ、そりゃーーーー」と思った私は、その先を読むのを止めました。見ちゃいられない、って感じです。作者は高山病のことをまったく理解しないまま描いていたのですね。
先日マンガ大賞を受賞した石塚真一氏の「岳」にも、似たようなシーンがありましたね。雪洞でビバークしている2名の遭難者のうち、ゲホゲホやり始めた方の遭難者を置き去りにして元気な方を担いで下ろしていくわけです。ようするに肺水腫にかかったからもうダメ→可哀想だけど置き去り、という論法なのですが、それはちょっとマズい気がします。まだ意識がしっかりしているのだから、そんな簡単に死なないって。肺水腫だからイチかバチかで無理矢理下ろす、というのならわかるのですけどね。
と、前置きが長くなりましたが、つい先日、「岳」の3、4巻をうっかり購入して読みました。以下の文章は重箱の隅を楊枝でほじくるような非常に細かいツッコミの連続なので、「岳」の大ファンだという人はさっさとブラウザを閉じてください。
◎第1巻第0歩
遭難事故を担当するのが地域課だと描かれているのは素晴らしいです。が、北穂高岳で発生した事故を長野市内の警察署が担当してはいけません。なぜなら、槍穂高連峰の長野県側は松本警察署のナワバリなのです。槍ヶ岳以北の北アルプス長野県側は大町警察署、常念岳や燕岳周辺も東側は安曇野警察署のナワバリです。また北アルプスの西側は岐阜県警や富山県警のナワバリというわけで、けっこうこまかく分かれています。
◎第1巻第2歩
私はまったく経験ありませんが、ゾンデ棒使った捜索って、もうちょっと規則正しいものだと思います。
◎第1巻第3歩
アイゼンを持っていない登山者に主人公がアイゼンを貸すシーンがありますけど、雪山にアイゼンとピッケル持たずに入山するようなレベルの登山者は追い返すべきですね。
◎第1巻第4歩
ヘリコプターに遺族の方が乗って現場に駆けつけるというのは、ちょっと考えられないですね。まあ、それはいいとして、主人公がいきなりお父さんに殴られていますけど、現実の世界ではそういう理不尽なことはやめたほうがいいですよ。山の関係者って、腕っ節の強い人そろっていますし。
◎第1巻第5歩
ヘリコプターに今度はお母さんが同乗です。う~~~む。
前にも書きましたが、遺体は機内に収容できないなんて決まりは無いと思いますよ。3回ほどヘリコプターによる遺体収容の現場を目撃というか当事者になっていますが、うち2回は機内収容です。だいたい、機体にぶら下げて飛ぶってのは、普通に考えたら空気抵抗の増大を招くので無意味です。
おそらくは、旅客機なんかでは遺体を客室に入れられないという航空会社の規定と混同しているような気がします。
◎第1巻第6歩
ロープワークがよくわからんです。
2人を同時に吊り上げるのって、けっこう大変だと思います。以前、警察の訓練で女性の県警隊員を背負ったまま小柄な男性を吊り上げる、ってのをやりましたけど、この時には1/3吊り上げシステムを2セットつかって7~8人で引っ張りました。けーさつの人によると、これで1/9吊り上げになるそうです。で、腕力に自信のある小屋番関係者ばかりで引っ張りましたけど、えらく時間が掛かりましたね。
◎第2巻第1歩
花を採ってはいけません。
◎第2巻第2歩
小学校の学校登山で北アルプスって、あまりないよね。
◎第3巻第0歩
いつも思うのですが、主人公はちゃんとキャンプ指定地にテントを張っているのでしょうか。アナーキーなクライマーならまあ許せるとして、山岳救助活動に関わる人間がキャンプ指定地意以外でテントを張るのはちとまずいかもよ。
ちなみに指定地以外にテントを張ると、時々やっかいなことになります。たまたまテントを離れて水くみに行っている最中に他の登山者が「無人のテントがある!遭難じゃないか?」なんて通報しちゃったりするので、少なくとも北アルプスの夏山とかではちゃんとしたところに張りましょう。
あとエベレストへのアタックシーンの回想がありますけど、これも何か変です。無酸素狙う人間が、酸素ボンベを隠し持ってはいけません。というか、普通は重いから持ちません。
◎第3巻第1歩
遺体を岩壁から落とすシーンがありますけど、今はやらないような気がします。昔はけっこうあったそうですが、その場合毛布にくるんでからガツガツに縛り上げます。独特の縛り方なので、テキパキとできる人を見ると怖いです。マジで。
◎第3巻第3歩
次の第4歩もそうですが、このマンガにはヘリコプターが現場で着陸しているシーンがたくさん出てきます。が、実際には着陸できるほどのスペースって北アルプスにはなかなか無いのです。第一、山小屋に併設しているヘリポートでさえ着陸しないことが多いのです。
◎第4巻第0歩
どちらも重体だという現場が2件あり、どちらを優先するか、というのがテーマなのですが、このケースは難しいことはありません。頸椎骨折ならひとりでレスキューできるもんじゃありませんから、結局大人数の救助隊が必要です。主人公ひとりが飛び回っても意味ないのです。
この場合は両方の現場に同行者がいて携帯による連絡も可能ですから、主人公がやることはただひとつ。両方の現場の位置をしっかり確認することだけです。
◎第4巻第2歩
滑落停止訓練がちょっと変。
◎第4巻第3歩
遊覧飛行はまずいかもしれない。
◎第4巻第6~8歩
某民間ヘリコプター会社をモデルにした話ですな。
亡くなった「神様」のためにも書いておきますが、経験の少ない女の子を現場に放りこんでおいて自分はヘリコプターから指示を出すだけ、なんてことはしませんよ。どんな現場でも真っ先に突っ込むのが「神様」であり、そうでないとあれほど尊敬されないでしょう。
口先三寸でレスキューするのはこの私の得意技であり、脅したりすかしたりごまかしたり下手にでたりと何でもやります。
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ヤマケイあたりからも山岳救助隊、各県警の「・・・もったおまわりサン」シリーズも出ていますし、マジで救助活動の実際・苦労話を知りたい人は「岳」には触らないかもしれませんね(私もその一人ですが)。そのヤマケイも今月号はマンガ大賞受賞の記事で、ヨイショした記事を書いています。話題のマンガ本となって、これでまた売れるんだろうな・・・。
ピッケルを突いて岩場をガシガシ登るシーンが無いだけマシかなと・・・。
漫画ですからね。
花を摘むのは漫画でも許せん思い・・
あの漫画にはありえないことが多すぎで
3巻で嫌になりました。
去る1月16日の記事に、恩師が奥多摩で行方不明であることを
コメントに書かせていただいたものです。
この記事と関係ないのですが報告をさせてください。
先日、海沢で遺体が発見されました。
4ヶ月たってやっと、お戻りになりました。
コメントをアップいただけたことに感謝します。
ありがとうございました。
このマンガって、リアリティが微妙なんですよね。面白いストーリーもあるのですが、少々山をかじっている人なら「ありゃりゃん?」となる記述がちょっと目立ちます。
主人公がスーパーマンなのは、このマンガの面白さだと思います。が、泣かせるシーンで変なコトが書いてあると興ざめする、の繰り返しです。
>しーば様
マンガって影響力大きいですから、花の摘み取りだけはカンベンしてくれ、と思います。
>カメの歩み様
出てきましたか、良かったですね。すごく気になっていました。
当初のコメントでは長沢背稜方面らしいとのことで、奥深いところだからなかなか出てこないだろうと思っていました。それにしても海沢からなんてまったく予想外のところです。
私も海沢で発見というのは本当に驚きました。
山に入る前になにか見たいものでもあったんでしょうか。。。
雪解け水で流れてきたとかあるのでしょうか?
ご家族から詳細をいただいていないので
何もわからないのですが、釣り人に発見されたようです。
ともかく体が出てきて本当によかったです。
ありがとうございました。
今連載中の孤高の人なんかも突っ込みお願いします。
山漫画ではオンサイトが好きでしたがもう続きは書かないんだろうか。。。
事故が1月のことですから、滝の氷結を見に行ったのかもしれません。今思い出しましたけど、滝が氷結することで有名なところです。
で、釣り人に発見されたってことは、凍結した登山道から滑落して、沢底に落ちたのかもしれませんね。
>sorakumox様
孤高の人がマンガになっているというのでネットで検索してみましたけど、アレが学園マンガとして復活ですか・・・・・・・orz
それだったら「剣岳点の記」をそのままマンガにしたほうが断然面白いような気がしますねえ。
元富山県警山岳警備隊の谷口凱夫氏の「アルプス交番勤務を命ず」(p46)によると、遺体は原則外につり下げという記載があります。地域によって決まりがいろいろあるんでしょうかねぇ。
となると、実際にはどうなっているのか、私もちょっと解らなくなってきました。もしかしたら法的には吊り下げが原則で、実際の運用が違うのかもしれません。
今年の夏も入山しますので、機会があれば県警の人に聞いてみます。
作者がクライマーだから、信じきってました!
でも、岳を読んで素直に山っていいなあと思いました。
マナー違反は論外ですが、山があってよかったって人がいっぱいいて、山からたくさんのものをもらっているんだなあ、と羨ましく読みました。