豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

富士山の遭難で機内収容直前に要救助者が落下

2013年12月03日 | 山を飛ぶヘリコプター
ちょっと信じられないことが起きてしまった、というのが正直な感想です。


救助作業中に1人落下 富士山滑落で消防ヘリ
中日新聞  2013年12月2日 15時39分


引用
ヘリに収容する直前で男性を固定していたベルトが外れた。隊員2人が男性のえりや体をつかみ、ヘリを降下させたが、約650メートル西で隊員が力尽き男性を落下させた。
引用おわり


引用
ヘリの機体側面にある金具(長さ3センチ)に男性の衣服などがひっかかり、男性の体がベルトから抜け落ちた可能性があるという。
引用おわり


自分でもいろいろ可能性を考えてみましたけど、さっぱりわからないですね。機体側面の金具に引っかかったのかもという話も、本当かな?って気がします。長野県警で使っているヘリハーネスだと、背中から肩を通して胸まで届くストラップを装着するので、そう易々とハーネスから身体が抜け出すことは考えにくいです。

静岡市のサイトで消防ヘリがどんな救助器具を使っているかを見てみましたけど、ちょっと構造まではわかりませんでした。



救助でヘリから落とす 心肺停止の男性2人死亡 富士山滑落
産経新聞  2013.12.2 15:17


産経新聞の記事だと、事故の状況を再現した画像が出ています。パッと見ると、左側にいる隊員は地上まで降下してから、要救助者と一緒に吊り上げられている状態。右側の隊員はスキッドに乗って要救助者を機内に引っ張り上げているところでしょうか。


で、この記事にはもう1枚画像があるのですが・・・

http://sankei.jp.msn.com/affairs/photos/131202/dst13120215180012-p2.htm


救助器具がすっぽ抜けてしまい、ワイヤーにぶら下がっている隊員とスキッドに乗っている隊員がかろうじて要救助者を引っ張っている様子が再現されています。がっしり掴まえているならともかく、いきなりハーネスが外れて滑り落ちそうな状態だったら、厳しいでしょう。想像すらしたくない状況です。






と、ここまで書いたところで、いつもチェックしているヘリコプターパイロットのブログが更新されていたので紹介します。

静岡消防ヘリ 遭難者を落とす、、、、 /ドクターヘリパイロット(元)奮闘記

引用
遭難者は救助当時意識はあり、サバイバースリングという輪状の健常者を吊り上げる用具で吊り上げられ、横方向へ移動させ、ヘリの中へ入る際にこの輪っかから抜けて、墜落しそうになったとき、両方から介添えしていた救助隊員が掴んで一緒に機外へ落ち、隊員が就けているモンキーバンドの長さの分機外に宙吊りになったようです。
 二人の隊員が宙吊りになりながらも、必死になって遭難者を支えて落下することを止めていましたが、ある程度の時間がたってとうとう支えられなくなって、遭難者を落としてしまったようです。

引用おわり


これは相当厳しい状態ですね。



引用
このスリングはやわらかく、直径10センチ近くもあるような素材でわっかの大きさは1メートルもあるもので、ただ単に両腕を通すだけのもので、重傷者や意識不明に近い遭難者の吊り上げは、すり抜けるおそれがあるため通常は使用しないものです。
重傷者はボート状のバックボードのようなものに固定し、水平状態で吊り上げることが普通ですので、今回のような重傷うたがいの遭難者になぜサバイバースリングを使用したのか良くわかりません。

引用おわり


うーむ・・・


先ほど、長野県警が使用しているヘリハーネスに、背中から胸に回すストラップがあるという話をしました。これが備わっているのは、意識不明状態だとハーネスを装着してものけぞってしまうから、という話を聞いたことがあります。このストラップがあるので、遭難者が意識不明でもストラップが上半身を支えてくれるのです。

クライミング用のハーネスを装着した時のことを思い浮かべればわかるかと思いますが、普通の状態であれば下半身だけを支えるハーネスであっても問題ありません。遭難者本人が上半身を起こすので、ひっくり返ることがないのです。が、意識不明状態だとだらーんとなってしまうわけですね。


引用
富士山頂付近でも、風の状態が悪くなくて、搭載重量など性能の余裕があれば、操縦の効きが若干ダルになるだけで、どうと言うことのないフライトなのですが、風、重量、がきつい条件になると一挙に最高難度の技量を要求される厳しい現場となります。
引用おわり


この遭難は標高3500m以上で起きているわけで、普通のヘリコプターにとっては高度的に厳しいだろうと想像できます。ヘリコプターはただ飛ぶだけならもっと高いところを飛べますが、ホバリングとなると話は別です。で、レスキューするにはホバリングが必須です。





この問題についてはしばらく注目していきたいと思います。



==追記==

テレビで事故状況の再現シーンを見ましたが、使用している救助器具は前述のブログで触れているように両腕を通すだけのものでした。私が扱ってきたのは股間にベルトを通すハーネスタイプなので、ああいう落ち方はまず考えられません。

4 コメント

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Unknown (みいさん)
2013-12-03 20:12:28
防災ヘリなどの救助訓練展示では、サバイバースリングでの吊り上げは見たことが無かったので、こうやって名前を聞くと、実際に使っていたのかと、そっちのほうに驚きました。

「長野県警が使用しているヘリハーネス」に類する装備は、消防防災航空隊も保有しています。
エバックハーネスと呼ばれており、一般的なものです。

現場の事情は分かりませんが、なぜサバイバースリングを使用したのか、かなり疑問です。
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Unknown (ぴょこ)
2013-12-04 23:40:20
本日付の記事で、股下に通す補助器具を装着できなかったと報道されています。読売などで出ていますのでご確認ください。
ちなみに、毎年行っていると報道された京都労山の富士山ですが、過去の記録をみると2010年が最初で、昔富士山で雪山訓練をしたことがあると初めて富士吉田口から日帰り計画で登って失敗したと書かれていました。その後、昨年、一泊で同じく富士吉田口から登り、今年は三度めのようですね。しかも、今回は御殿場口なので同じと言えるかどうか?
今年は今のところ、11月から新雪雪崩など、例年の1月ごろの様相を呈しているようです。年末年始など事故が増えなければいいのですが。
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Unknown (ONS)
2013-12-05 01:35:00
こんばんは

この時、
・要救は手を振るくらいの意識はあった
・要救は寝袋型シートに包まれていた
・昼過ぎの発災から何度もアプローチしていたが近付く事もできなかった
・日没前のラストチャンスでガスが晴れた
・直前に1人救助され、残る要救(生きてる)はあと1人、地上隊はまだはるか下

という状況でした。

ヘリが安定しないなか、降下隊員はホイストから離脱が許さないない状況であり、
(離脱したら最後、隊員をヘリに戻せなくなるかもしれないため)
エバックやピタゴールを装着する余裕がなかったと思います。

わずかでも意識があれば、サバイバーで 隊員が抱きついていれば落ちる事はないのですが、
(本当はダメですが溺水者などでよく使われています。水流で隊員が活動すると危ないので。たしか数年前に警察が水死体を落としてました)
不幸な事に要救がスキッドに引っかかったままホイストを巻いてしまったように見えます。
すり抜けたというより、ホイストの力で引き抜かれたという方が近いかと推測しています。

大した防寒具もつけず、窓全開で何度も富士山上空を旋回した隊員には引き上げる体力はなかったと思います。

さらに不幸な事に、要救は下半身がシートに覆われていたので、股の下に通すバックアップベルトが使われていませんでした。
さらに言うと要救はハーネスを履いていたはずで、それに隊員が気付いていれば、最後の最後でも対処できていたように思います。

あまりにも不幸が重なった事故だったのではないかと思います。
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Unknown (みいさん)
2013-12-07 12:35:52
股下ベルトを通せなかったことについては、シートはいわゆるレスキューシートであるようで、それが支障になったのかと疑問です。そんなに丈夫なものだったでしょうか。

それに救助において支障になるようなものならば、先行した警察ヘリが確認していなかったのか。
遭難者から・警察からの情報はどの程度伝えられていたのか。

救助隊員はナイフ等を装備していなかったのか。登山者なのだからロープ・スリング等でガンジガラメの可能性もあるわけだし。

なにか腑に落ちません。

また、マスコミでは股下ベルト以降情報が出ていていませんが、今回の件が救助隊員個人の過失の問題にされてしまう(少なくとも一般のニュース視聴者にとってはこれで終わりでしょう)のも嫌な感じです。
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