浜松大学教授で、ユング派の精神科医である
前田正先生にお話をうかがう機会があった
最近の傾向として、“うつ”の患者が多いという
だが、一般にうつと言っても、「塞ぎこむ」程度
の理解しかなく、その曖昧な理解が誤解を生み
偏見などにも繋がっているらしい
まず、“病”と“症”の違いがあり、自分で
「少しうつ気味かな?」と感じるのは軽い
方の“症”で、投薬が必要な“病”とは明
らかに違うとのこと。病でなければ、全く
気にする必要がないということだった
さて、投薬が必要な「うつ病」の症状とは
1 ゆううつな気分や体の不調が朝から強く続き
夕方にはいくらか楽になる
2 不眠で一度寝付いても、暗い早朝に目が覚める
3 食欲低下と体重の減少
この3つの症状が2週間以上続いた場合
専門医に診てもらったほうが良いとのこと
ところで、うつになりやすい性格というのがあるらしい
① 白か黒か。百かゼロか、という考え方をする人
② 思考の一般化。つまり、何度か就職に失敗した後で
「就職出来ないのは自分に非があるから」と考え、だから
今度も無理だ、という決め付け、マイナス思考
③ 個人化。すべてを自分のせいにする
④ すべき思想。「~すべきだ」と人にも自分に課してしまう
⑤ 結論の飛躍。まだ何も結論が出ていないのに、自分で
いろいろと飛躍して考え、マイナスの結論を出してしまう
⑥ 拡大解釈。些細なことを大げさに考えてしまう
このような思考傾向の人は、暢気な人に比べて
うつになりやすい傾向があるというのだが
それを自覚して「優れた自分もダメな自分も
両方とも受け入れて認めてあげよう」と思う
のが、うつを避ける思考方法のようだが
ネガティブ思考が染み付いた人には
なかなか自分を認めることは難しい
そんな話を伺った後に、僕は訊くとはなしに尋ねた
「うつを予防する方法ってないもんですかねぇ…」
その僕の言葉に、前田先生は居住まいを正し口を開いた
「実はですね、うつを回避する凄い魔法の言葉があるんです」
「魔法…ですか。それは、どんな…」
前田先生は真剣な面持ちで、次の言葉を吐いた
「ジャマイカ」
「じゃまいか…ですか」
その言葉を聞いたとき、僕は何かの学術用語の
英語の頭文字をつなげたものと思った
「ジはJ…かな?なんの英語の略だろう」
そんなことを呟いていると前田先生は
「英語じゃありません。“じゃーいいか”“まーいいか”
それを合体させた言葉が“ジャマイカ”です」
なんや、ソレ、という思いで、僕は先生の次の言葉を待った
「うつになりやすい人というのは、とても真面目な人が多い
何か失敗したり、自分の理想通りに物事がいかないと、それを
自分のせいにして、自分を責めてしまう傾向がある。本当は
良いか悪いかの二者だけではなく中間もあるんだと、フッと
現時点での思考に距離を置くために、立ち返るために、一度
思考を突き放す必要がある。深く突き詰めない。そのための
言葉です。“まっ、いいか”。“じゃーあ、まあ、いいか”」
冗談と思った言葉「ジャマイカ」
意外に真面目な話だったのだ
前田先生は続ける。「こういう思考は、一見いい加減思われがち
だが、うつにはこの思考方法が一番。だから、自分に対して
“今から僕はジャマイカ主義だ”と、心で宣言してしまう
すると、自分で納得して、ジャマイカは正当化される。これが
必要なんです。自分に宣言することが」
うつ症気味の人は、何か思い悩んでいることに気づいた際
初めは小さく「ジャマイカ」と口にし、次はやや大きな口調で
「ジャマイカッ!」と言えば、アラ不思議、気分も晴れる
ついでに踊れば、更に効果的と思うが、先生いわく「それでは
やり過ぎ」で、逆に躁状態に陥る可能性があるのからNGとか
ともかく、うつ気味と自覚症状がある人は試してみるといい
「自分は、今日からジャマイカ主義だ!」と
気分が軽くなるはずだ
そうそう、躁状態(シャレではない)の人の特徴に興味深いものがある
これも前田先生に聞いた話だが、心にキャパ以上の負荷がかかると
躁の人は症状が悪化して、ハイになりすぎて物を壊したり、信じられない
大金をギャンブルに投じてしまうことがあるという
だが、自分が常識はずれのギャンブルをしているという自覚症状はないらしい
それを聞いて、大王製紙の井川意高・前会長を思い出した
そういえば、彼はマスコミのカメラにも無表情。外界をシャットアウト
したような表情は、チト病的なものを感じたが、もしかしたら、彼は
躁うつ病かもしれない。これは、身内が気づいてやるしかないのだが
井川一族は、彼の異常に気づかなかったのか
だとすると、彼ら一族の責任は大きい
彼に必要なのは弁護士ではなく、精神科の先生なのでは…?