以前、NHKのドキュメンタリー番組で、京都大学霊長類
研究所の興味深い実験が紹介されていた
二匹のチンパンジーが、透明なボードで仕切られた檻にそ
れぞれ入れられている。双方の仕切りには、手が入るほど
の穴があけられている
一方の檻には棒が転がっているが、片方の檻には棒がない
棒のない檻にいるチンパンジーは、仕掛けに入ったエサを
取るべく色々と苦心している。棒があれば、難なくエサを
取れるのだが、その棒がない
一方、棒のある檻のチンパンジーは仲間が苦心しているの
を、ただ興味を持って見ている。自分の近くに棒があるの
は認識しているが、それを仲間に与えようとはしない。意
地悪をしているのではなく、単に、それを渡そうという思
いに至らないのだ
エサを取るため苦心さんたんしていたチンパンジーは、仲間の
檻に棒があるのを見つけ、それを手に入れようと隙間に手を入
れる。だが、手を伸ばしても届かない。どうやっても届かない
棒の近くにいたチンパンジーは、ただそれを見ている。棒を取
ろうとしていたチンパンジーは、しびれを切らしたように仲間
に「キーッ」と訴える。すると、棒の近くのチンパンジーは悪
びれた風も無く「あ、これを取って欲しいの?」とばかり、相
手に棒を渡す。棒を手に入れたチンパンジーは、それを使って
ようやくエサを手に入れる…
このドキュメンタリーを観ていない人にも、様子が理解できただろうか
チンパンジーに悪意はない。つまり、仲間から取ってくれと
言われないと行動しないのだ。言われる前に、相手の心情を
察知したり、彼の苦労に思いを至らせ、その苦を取り除いて
あげようとか、助けようとかの行動を、自ら起こすことがで
きないのだ。ましてや、皆の将来の為に何かをするなどとい
うことは絶対にない
実に興味深い実験だ
また、同研究所の別の実験によると、チンパンジーの子どもは記憶力が
優れており、それは人間の大人以上だという。だが、のっぺらぼうの顔
や、目のないチンパンジーの似顔絵を見せても、チンパンジーは似顔絵
の輪郭をなぞったりするだけで、他に独創的な行動をすることはない
一方、人間の子どもは、のっぺらぼうの顔の輪郭に目や口、髪の毛など
を描き加えて遊びだす
チンパンジーは〝目の前にあるそのもの〟を見ているが、人間はそこに
“ないもの”まで見ているというのだ。つまり、想像力だ
だから人は、深夜に道で寝ている泥酔者を見れば、このままでは車に
撥ねられるかもしれないと思い、泥酔者を起こし、道路から離そうと
する。チンパンジーのように、「助けて」と言われなくとも、瞬時に
最悪な事態を想像し、先を予想し、そうならないために行動する
それが人間の証明だ
女児が一人でヨタヨタと道を歩いていたら、すぐに抱きかかえ、側に
親がいないかを探し、女児が安全に親元に届くまで心を配るのが人間
だ。それを無視し、たとえ車に轢かれ苦しんでいても何もしないのは
チンパンジーに劣る
原発の地下に活断層がある可能性が高いと学者が言えば、それが経済的に
痛手であろうとも、大地震が起こった際の被害(原発の周囲の人間はおろか
日本全体が取り返しのつかない悲惨な事態になり、更には世界にも多大な
影響を及ぼすという被害)を考えれば、このまま原発を稼動するのはあまりに
危険と判断し、一時的に原発は休止し、徹底的調査をする…というのが
普通の人間であり、そうすることが人間としての証だ
幼児を性の対象にした写真や動画で稼ぐのは、それを観た人間が、実際に
幼児に悪さをするキッカケになるかもしれないから、そんな恐ろしいこと
で金を稼ぐのは絶対に良くない、と人間ならば考える。麻薬は人間を破壊
し、破壊された人間は善良な市民の生命を危険におとしめる…だから、麻
薬の売買で糊口を凌ぐのは、人間として許されない…。チンパンジーには
及びもつかない理性と知性と想像力で、人間は判断し行動するのだ
一瞬にして凄まじい数の人間を灰にし、都市を消し去ってしまう核爆弾を
敵対する国への脅しの道具として遊んでいるうちはいいが、一人の狂人指
導者や、爆弾を実際に運んでいる戦艦の艦長や現場の兵士が、そしてまた
それを盗んだテロ組織が、世界を終わらせ神に返還しようなどと言い出し
行動したら、地球は本当に終わってしまう。人間は、その危険を想像して
核爆弾などという悪魔の兵器を地球上から無くそうとする。それは、チン
パンジーにはできない“人間の行い”なのだ
俯瞰で地球を見てみる
この惑星で実権を握る住人は…人間か、それともチンパンジーか…