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連載小説『フォワイエ・ポウ』7章(第38回掲載)

2006-06-15 00:28:35 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<添付画像>:(Steep rock slope at the Moselle River, from Wikipedia)

 フォワイエ・ポウのオーナーマスター本田氏の大好きな「ドイツ・モーゼルワイン」の故里です。
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長編連載小説「フォワイエ・ポウ」
                        著:ジョージ青木

7章


1(転換期)


(1)

「マスター、今夜はひまですね・・・」
「石井君、その通りだよ。今夜は早い時間に2組で合計5人。いやいや、ため息出るよな・・・」
時計は深夜12時を回っていた。
「ところで、おなかすかないか?」
「・・・」
「忙しくない日に限って、腹が空くんだよなあ、石井君よ、君はどう?」
10時過ぎから本田は、生ビールを飲んでいた。ビールを飲めばトイレに立つ回数が多くなる。バイト学生の石井に話し掛けながら、本田はまたトイレに立つ。
席を立ちながら、石井に向かって話す。
「ビール飲んでたら逆におなかすいて、焼肉食べたくなった。なあ、そろそろ店閉めて、ドカ~ンと景気付けに、久しぶりに焼肉でも食べに行こうか?」
本田の発したこの一言は、退屈も極限になり眠りかけていた石井の目を覚ました。
「は~い、待ってました!はい、是非お供します・・・」
今から客が入ってきても大丈夫。逆に、いつでも仕事のできる体勢に気分を切り替えた。
本田がトイレに入ったとたん、店に電話がかかってきた。
石井が電話を取った。
本田はその電話の内容が気になっていたが、トイレで電話の受け答えもできず、トイレから出てきたときには、かかってきた電話は切れていた。
「何だって、誰からの電話だ?」
「はい、女性からの電話でした。まだ、店が開いてるかどうかの確認と、今から3~4人でこちらに向かうから奥のボックス席を用意しておいて欲しいとの事でした」
「誰だ、名前聞かなかったの?」
「すみません。お聞きしたのですが、なぜか、名前はおっしゃいませんでした・・・」
「わかった。しかたないな・・・」
すでに店仕舞いする気になっていた本田は、あらためて客を迎え入れる気分になれなかった。まして、誰が来るのか分からない状態では、ますます気が重くなる。
「しょうがないな。店閉めれなくなったな。よし、しばらく待ってみるか、15分以内に来なければ店閉めちゃおう・・・」
電話がかかってから約10分、確かに客は来た。
「先ほど、電話をしたものです・・・」
男女1名ずつ合計2名の来客に対応し、
「いらっしゃいませ!」
という、こちらの挨拶にも答えずに、女性を先頭に、勝手に奥のボックス席に入っていく。常連客のようでもあり、そうでもない。つまり本田も石井も知らない客である。分かっていることは唯ひとつ、クラブのホステスが自分の勤務している店が閉店した後になって、自分の店の客をフォワイエ・ポウに連れてきた。たぶん、そうである。
状況だけは判断できた。
しかし、
「フォワイエ・ポウに行こう・・・」
と、ホステスの方から誘ったのか、客がホステスを誘ったのかは定かでない。が、本田は全く気に留めなかった。
客の対応、すなわち注文取りは、とりあえず石井に任せた。
注文を受け終わった石井は、
「白ワインをボトルで1本。それから適当におつまみが欲しいとの事です。チーズクラッカーが良いそうです・・・」
「了解、なんだかこの店のメニューがわかっているようだな・・・」
「そうなんです。でも、常連さんではないと思います。私は、あのお二人の顔を知らない。店でお会いしていたとしても、さて、どうもわからない・・・」
石井は首をかしげている。
「その通り、常連さんではなさそうだ・・・」
本田も、わからない。
本田が注文の飲み物とおつまみを準備し、石井はボックスに運んだ。その後は声も掛けずに放っておいた。
いちばん奥のボックス席に客が入ってしまえば、カウンター席からはまったく客の姿は見えない。が、なんだかひそひそと男女の話している雰囲気は、かろうじてカウンターの内部の本田にも伝わってくる。
約30分経過した頃、ようやくボックス席から声がかかった。
「ちょっと、おあいそして・・・」
屋台か、居酒屋風、ぶっきらぼうな言葉である。
「はい、かしこまりました。ありがとうございます」
カウンターの中にいた本田は即座に反応した。
しかし、わざわざ自分からすすんで奥のボックス席へ出向いてまで、この客の対応をする気になれなかった。
代わりに石井がボックス席へ出向き、計算書を手渡した。ボックス席で男性客が清算を済ませている間、先に女性客が席を立って店を出た。女性客の後から席を立ち、店を出ようとする男性客に対し、本田はカウンターの中から少し頭を下げる程度の挨拶をした。
客が立ち去った後、石井はテーブルのかたずけを始め、ボックス席からワインボトルとグラス類を下げてきた。
「マスター、見てください。ワインのボトルは空っぽです。おつまみは、クラッカーだけ残っていて、チーズは消えています。どういうことでしょうか?」
「へえ~、なんだって、チーズはホステスがお持ち帰りしたんだろうぜ。うれしいじゃないか、全然チーズに手をつけないより、もって帰ってもらったほうが、むしろ逆にうれしいよ・・・」
「たったチーズのおつまみだけ?2人でボトル1本を空けるなんて、、、。面白い客がいるんですね・・・」
「若し、私なら、どうだろう。ワインだけ飲め。といわれても、飲めないね。ワインは食間酒のイメージだから、しっかりとそれなりの時間の中、食事しながら、でなければ私は飲めない・・・」
もともと本田はビール党。ワインの話をしながら、生ビールのジョッキを傾けている。店内整理のための手の動きは休ませない。忙しく手元を動かしながら、石井は続けて本田に話し掛ける。
「そうでしょう?でも、今、ワインだけを飲んで、やたら『ワイン通』だと勘違いしている連中、増えていきました。その類の連中、今、たくさんいますからね・・・」
「まあな、人間いろいろいるからねえ・・・」
本田は直感的に思った。
(ウム、あの連中、2度とフォワイエ・ポウには来ないだろう・・・)
(でも、どうしてわざわざ電話してまで出向いたのか?どうして電話番号とこの店の場所を知っているのだろうか?)
むしろその事の方が気になった。しかし、直ぐに忘れようとした。あわせて、夜の商売をしているホステス連中の対応に関し、本田は迷っていた。どう対応していけば良いか、分からなかった。
本田にとって、
「水商売の女性を相手にすることは、自分には不向きである」
と、思うようになっていた。
「お~い、石井君よ。今から焼肉食べに行くか?」
「はい、マスターの『その一声』、待ってました!行きましょう行きましょう!今から大急ぎで店仕舞いしますから、でも、僕一人に任せてください。マスターはそのままビールでも飲んでいてください!」
「ウム、わかった。石井君に任せるよ・・・」
アルバイト学生の石井は、全ての手順を理解し、本田の動きを完璧に理解しながら、自分の位置を理解し、本田を差し置いて出すぎるような行為は慎む。本田の補佐を完全にこなせる、本田との間合いをうまくとれる。そんな対人関係のバランスと、つかず離れずの適切な距離を保てるのである。なぜか、そんな感覚に優れた男であった。確かに、まだ学生の石井、しかも二十歳(はたち)になったばかり。わずかこの1年間の経験しかないにもかかわらず、すでに本田マスターの代行を立派にこなしていた。

   <・続く・・>

(小説フォワイエ・ポウ既掲載分、ならびに前号確認などは、こちらから参照可能です)

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16 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (あすとろ)
2006-06-15 05:57:33
ドイツワインは良く聞くけど実際はどうなんでしょうか。わたしも現地を回ったけど、フランスの方が確かなようです。

今は、ワインもビアもぐびぐびでしょうね。ドイツサッカー調子いいですし。済
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やっぱり (刀舟)
2006-06-15 14:55:06
本田さんも人間ですね。

苦手なものがありました。

でも、それがホステスさんへの対応とは思いませんでした。



それから石井さん、

よい方をバイトに選んだようですね。

その有能さで、

本田さんの気苦労も減ることでしょう。
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水商売 (tono)
2006-06-15 15:03:52
>「マスター、今夜はひまですね・・・」

まさに、水商売ですからねぇ。

思わぬ流れがくる事もありますしね。



石井君だんだんと蒲鉾、、失礼、板に付いてきましたね。

そう言えば、学生時代、カウンターの中に憧れてたことありますよ。

シェーカー振ってみたり、マドラーの持ち方回し方なんかに、俄知識で蘊蓄をたれたりね。

でも今は、カウンターの外側が良いですね。

気を遣わずに飲めて、好きなだけいて、さっさと帰る。

今はこれですね。



ふたり組何者でしょう?

男はスカウト?

返信する
勢いというか、 (tono)
2006-06-15 16:59:30
無謀にも自ブログを立ててしまいました。

他ブログのコメントは書けても、自ブログの記事は難しい(早速泣言)

更新はのんびりやります。

よろしくお願いします。

なお、リンク張ってもよろしいでしょうか?

なんせ、ど初心者でして。。。。

返信する
これは何? (yuyu)
2006-06-15 18:56:24
ドイツの事、分からないですが写真のツンツンしたものが…気になります^_^;

ご存知でしたら教えてください



ぽちぽち♪



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Unknown (TS@捻くれ者)
2006-06-15 20:26:07
今やネットで調べ初めての店でも、店の雰囲気、メニューなどもおおよそ分かり気軽に来店できる時代になりましたが。

以前は初めての店というのは入りにくい感じでしたよね。

私の地元の馴染みの一杯飲み屋はほとんどが常連客なので今でも昔の雰囲気が残っております。



551の豚まんを土産に買って帰宅しました^^
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あすとろさん・・ (エセ男爵)
2006-06-15 20:29:22
コメントありがとうございます。

ワインは世界中いたるところで生産されています。

ちなみに、

ウイキペディアに(このブログから)アクセス頂き、英文からさらに日本語にアクセス可能ですので、開いてみて下さい。

世界のワインの生産量が「円形グラフ」に描かれています。もちろんフランスワインの生産量は、世界一。

ドイツワインは、とくに馬鹿の一つ覚えで「シュバルツカッツ」というブランドが、私の好みなのです。

味は?

と聞かれれば、

軽い、

やや甘口、(辛口もあります)

魚料理に合う、

ソーセージ(豚肉料理?)と相性がいい、

チーズとの相性がいい、(私自身の味覚にて)

そんなところでしょうか?

でも、

ドイツははやり「ビール」!

今、

本場ドイツでは、ガンガンどしどし、ビールが売れているでしょう。

今、ドイツは、めちゃくちゃ熱いらしいですしね・・・
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刀舟さん・・ (エセ男爵)
2006-06-15 20:32:32
コメントありがとうございます。

この苦手意識、もう1~2回転します。

ストーリーのどんでん返しがありますよ!

期待してください。

本田マスター、苦手なものは多いのです。

アルバイト学生の(品質の良さ)に恵まれ、辛うじて店の経営を進めている本田マスターの日々。

これからどうなるのでしょう?
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tonoさん(1)・・ (エセ男爵)
2006-06-15 20:39:29
コメントありがとうございます。

いやいや、

水商売は、やはり水商売です。

どうなるかわからん・・・

よく流行っていると思われている店でも、月に一度くらい?オケラの日もあるのです。

カウンターの内の外、その違い、ありますねえ~・・・

やはり、

カウンターは、外の立場の人間のほうに、なるべし・・・

だから、客商売(特に接客業)は、たいへんなのです。

まして、

カウンター「一枚の距離」があれば、まだ良し、、、。

「おみず」たるホステスさんは、その距離が狭まり、たいへんです。ですから、自分が客になる時には驚くべき凶暴なる女王様になってしまうのです。

本田は、そんな連中の態度に辟易している・・・

連れの男性?

スカウトマン?

男ばかりの店フォワイエ・ポウに出向き、一体誰をスカウトしに来るのか?

さあ、

どうなのか?

お楽しみにしてください!
返信する
tonoさん(2)・・ (エセ男爵)
2006-06-15 20:41:07
勢いで!!!



ブログ開設なさったのですね!



おめでとうございます。(よかった・・・)



今夜、(コメント付け終わり次第)さっそくお伺いします!
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