180124 不動産どうする? <論点急増する「負動産」>を読みながら
増田元総務大臣が所有者不明の土地の急増を指摘して、政府においてもその対策の検討が本格化しつつあるようですが、どのような方向に向かうのか、ここで議論されているそれぞれの話しは一面を見ているように見えて気になり、今日は少し書きすぎと思いながら、ついタイピングの指が動いてしましました。
「負動産」というネーミングは誰が考えたのでしょう。その内容・定義はまだはっきりしていないように見えつつ、ここで取りあげられている課題が所有者不明に集中しているようにおもえますので、その辺りをいうのかなと思ったりしています。
まず所有者不明の土地が問題であることは確かでしょう。ではその問題は相続制度やそれに関連する登記制度の問題と片付けて良いのでしょうか。
私も土地の有効利用が望ましいと思います。しかしながら、「大化の改新」という括弧付き改革で公地公民制度を導入して以来、国の制度および指導によって土地を有効に利用することができてきたでしょうか。少なくとも、個人は利用困難と思えば逃散などしたりして、常に利用されない土地が歴史的には常に存在してきたように思います。
それは国家・行政が一方的に、あるいは事業者が一方的な判断で開発したり、土地利用を強制した場合、起こりうるデメリットの一つではないかと思うのです。
野田毅氏が指摘する「土地は利用するためにある」とか、所有権絶対の見方の行き過ぎは、基本的に賛成です。問題はその中身です。
たとえば、通常国会に新法案として提出予定の案は、次の内容を骨子にするようですが、一定の合理性は認められても、疑問が少なくないように思うのです。
<「中間とりまとめ」には(1)所有者不明の土地に公的機関が関与し、公共的事業による利用を可能とする(2)相続登記が長期間なされていない土地に法的措置を取る(3)登記簿情報のオンライン化を進め、マイナンバーの利用も見据える(4)小規模市町村の要員不足に対して国や都道府県が支援する>
さらに<登記の義務化><所有権の時効>を所有者不明土地に適用とか、森林地区に新たな制度を準備しているようです。
基本的な流れ自体は、私もこれまでこの問題で採り上げてきた中で指摘している部分と重なる点もあり、必ずしも反対の立場というわけではありません。
しかし、たとえば、公的機関が関与し、公共的事業による利用を可能としている点は、それが土地がもつ公共的側面を活用する意味では意義のあることと思いますが、残念ながらその公共機関、公共事業の内容に、これまでの多くの問題性を抱えたままでは望ましいとは思えないのです。
公共事業が道路、防波堤、護岸工事、などなど、いわばハードなインフラ整備を中心とした土地利用を対象にしているのだとすると、過去の蹉跌を引き継ぐことになりかねません。
そして現行の都市計画法など計画法制や事業法制では、適格な担い手、民主的な手続保障、可視化が不十分です。これを改めないで、所有者不明の土地だからといってこの新制度で利用を促進することは危険だと思うのです。
野田氏が指摘する圃場整備の場合、今後そのような整備手法が有効かも検討されてしかるべきでしょうし、また分譲地計画であっても同じ問題を抱えていると思います。
中間とりまとめの②以下は基本的には賛成です。ただ、登記されれば本質的な問題が解決するかというと、それは違うと指摘しておきたいと思います。
次の吉原祥子氏の見解も、相続登記に中心が置かれていて、それは喫緊の問題だからということで、公証人に関与による相続を提案するのでしょうけど、はっきりいえば現状を理解されているのか心配です。たしかに公証人が関与すれば登記はスムーズに進むかもしれません。しかし、遺産分割の紛争がある事件では公証人には手に余ることが多いでしょうし、紛争がない事件でわざわざ公証人の手を経なければいけないというのも(登記代理権もないわけですから)、いわば帯に短したすきに長しといった印象をぬぐえません。
それに吉原氏が指摘する土地制度・法令の複雑さ多さについて、その問題はだれもが承知していてどう解決するかが問題なのであって、それについての意見は残念ながら見当たりません。
また、売買規制の問題を指摘していますが、問題は現在の土地利用が放置され、荒廃している点です。それについて問われているわけですが、答えがありません。それはこの論点で登場する三者の共通する問題です。私がこの記事を取りあげようと思ったのは、あまりに所有者不明というピンポイントに問題を集中させ、異論も取りあげない、しかも実践的な対策にも疑問があるということから、あえてテーマにしたのです。
渋谷幸英氏は不動産業者らしく、土地取引や利用で困っている状態を踏まえて、登記法や農地法を含む土地利用(規制)法制の問題を指摘し、相続登記の義務化を求めています。
それ自体は私も基本的に賛成です。しかし、これから相続のある方は新法制である程度実現できるかもしれませんが、現在相続登記が未了の土地について、遡って規制できるかの問題もありますね。
それよりも相続登記が簡単にできる場合、たいていやっているのではないでしょうか。法務局の窓口にいけば、素人でも登記官が親切丁寧に教えているので、相続登記くらいだったら司法書士に依頼しないでも簡単にできるでしょう。
しかし、現行相続制度では、子どもがいない相続人の場合、それだけで戸籍謄本・除籍謄本などを大量に収集しないといけません。そうでなくとも海外などに滞在したり、外国籍になっていたり、身分関係や居住関係がどんどん複雑になっています。そのような場合に簡易化する制度的手当はありません。
一つは公正証書遺言ですが、この普及はまだまだですね。こういったことも終活の最低限度としてサービス提供が必要でしょう。
しかし何よりも重要と思うのは、利用です。耕作放棄地、森林の荒廃地などは、いずれも所有者が確定しても、容易に解決できない問題です。たしかに農地法は遊休農地対策で農業委員をその改善の実戦部隊として活動させていますが、大きな成果を上げているとは言いがたいと思います。
空き地・空き家問題も都市空間だけでなく、地方でも深刻な問題です。すでに先進的な自治体は、各種条例で対応してきていますし、新たな後者は一応前進しているようにも思えます。
しかし、どこを見てもその大きな改善はまだ緒についたばかりでしょう。これらの問題への取り組みはより急がれると思うのです。
最近、関東で仕事をしているとき長くお世話になった教授から贈呈いただいた書籍があります。北村喜宣著『空き家問題解決のための政策法務~法施行後の現状と対策』です。
これを読んで少し紹介したいと思いながら、気持ちだけでなかなか読めないでいます。いい加減な紹介をすると申し訳ないので、ここは少しまじめに読みたいと思うのですが、そうなると、最近の法律書への関心度の低さから、頭も回りませんし・・・いいわけはそのくらいにして近いうちにできればと思っています。
なお北村氏は、その処女作ともいうべき92年発行『環境管理の制度と実態』ではアメリカ水質浄化法を実務レベルまで調査して、見事に描いていて、それ以来著者のファンになっています。
また、04年発行の『分権改革と条例』も、各地の自治体法務担当者にとってバイブルになってもおかしくないほど、優れた内容です。
今日はこのへんでおしまいとします。また明日。
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