白夜の炎

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低線量被爆の影響とJOCの事故健康被害 2

2014-02-22 13:41:50 | EU
「時期外れの落ち葉
 それから数日たった時、民放テレビの記者から電話がかかってきたんです。事件当日の風下の方の桜の葉や、他の落葉樹の葉がどんどん落ちてると。何でそんなに葉っぱが落ちるのか、まだ紅葉して落葉する時期でもないのにと。僕はすぐに言ったんです。中性子というのは、さっき言ったような働き方をしますから、葉の茎(葉柄)のような細いところに中性子が飛び込みますと、そこに集中被曝を与えますから、葉柄の組織が壊されて青いまま落ちちゃうんです。葉っぱには穴があくだけなんですが、葉柄のところにあたりますと落ちる。だから、それも速中性子が飛びかってた証拠だが、速中性子は風下だけに行くんじゃないと言いました。それで次の日、僕もつき合って現場を見に行ったんですが、案の定、風下とは関係なしに近いところほど葉っぱがいっぱい落ちててました。これは風の方向とは無関係に起こる事象ですから。素人考えすると、これは「放射能」だと思ってるから、風下だけで起こったと思ってるんだけど、さっき言ったように核分裂の結果、建物の中でできた放射能が飛び散っていることと、中性子が貫通して出ていくこととは全く違う現象だし、したがって生物に与える影響も全く違ったわけです。

大宮ガンマフィールドで白血病患者
 中性子の事故というのは、そういう特殊な性質を持ってることをお話しましたが、僕たちは、低線量被曝だけじゃなくて、放射線の種類によってどれだけ生物効果が違うのか、同じ放射線、中性子なら中性子でもエネルギーの大きさによって、どれだけ生物効果が違うかという研究をずっと続けてきました。

 また、一番最初にお話したように、アメリカのブルックヘブン国立研究所で、エックス線と速中性子の低レベル被曝が突然変異に関してはしきい値は全くなくて、どんなに小さくてもそれに比例して起こるんだということを実験的に証明して、それが公表禁止になったから、常陸大宮のガンマフィールドで実験的証明を繰り返したということを言いました。それは限られた放射線だけの現象なのか、他の放射線でもそうなのかということを調べなきゃいけません。

 そのうち、ガンマ線というのは、どんな現象を起こすかという問題が起きました。ガンマフィールドは、直径200メートルの中心、円の中心半径100メートルのところにコバルト60の線源をおいて、そこから圃場の中にガンマ線を飛ばして作物に当て、それで突然変異が起こって、その中で農業で有用な突然変異が起こらないかを狙ったものでした。そういうことで巨費をかけて作った圃場だったんです。

 ところが、あそこの圃場の近くの人で、大宮の人たちが、トラクターの運転手だとか、草取りだとか、いろんなことで圃場で働いてた人が、2人続けて白血病にかかって、結局2人とも亡くなるという、そういうことが起こったわけですよ。

 その人たちはガンマフィールドの中にいつも入ってるんじゃなくて、入る朝の8時から12時だけは、コバルト60線源を、上にある鉛の容器に入れてしまって、それでガンマ線が出ない仕組みにしてあるんです。しかもガンマフィールドの周りには200メートル直径、高さ8メートルの土手が築かれていまして、その土手の土の厚さは、ガンマ線はとうてい貫かないという設計になっているわけです。

散乱放射線の影響
 ところが、ガンマ線というのはコンプトン効果という、コンプトンという学者が発見したことが起こります。空気中には酸素分子もありますし、二酸化炭素の分子もある。もちろん窒素分子もありますね。そういういろんな分子にガンマ線があたりますと、その分子から電子を追い出します。それは電離化といいますが、その電離のために、電子が飛び出していくエネルギーとして与えてしまった分だけガンマ線のエネルギーが弱くなります。

 しかもガンマ線とかエックス線という電磁波は、波と書くように波長を持ってるわけです。波長が短いほどエネルギーが高いんです。逆に、エネルギーを失うと波長が長くなってくるんです。いろんな分子から電子を追い出します。原子でもいいですよ。だけど原子で自然界に存在するのはごくわずかで、普通は何らかの分子の状態です。そこから電子を追い出しますと、それで運動エネルギーを奪われて、より長い波長になる。

 それまでの考え方では、その長い波長になった低エネルギーの放射線は散乱放射線と呼ばれて、散乱放射線ではエネルギーが弱いから生物効果は弱いと考えられていました。コバルト60線源からは、ある高さより上には、直接のガンマ線はいかないように設計されてますから、8メートルの土手は越さないことになってます。だけど下向きになったガンマ線も、もちろん空気があるわけですから、それにあたる。土にあたる。あるいは作物にあたる。そこで、いろんな分子と反応してコンプトン効果で、より波長の長いエネルギーの散乱放射線としていろんな方向に飛んでいきます。それが、また他の分子とあたって弱いエネルギーになって、土手のより高い位置から、今度は土手の外側にももっと弱いエネルギーで飛んでいきます。

ムラサキツユクサで散乱放射線を調査
 その当時は、そういうことが起こることや、低エネルギーの散乱放射線はほとんど問題にならないと考えられていました。だから、どこのエックス線照射室の壁の構造も、分厚くしたり、何回か直角に曲げて直接のエックス線が漏れないようにしていた。

 それで、いろんな方向に散乱放射線が出て、こっちの壁に、あっちの壁に、何度もあたってくる。入口の鉄のドアにきた時には、ものすごくエネルギーは弱ってるから、もう問題ないだろうということで、鉄の扉の厚さもそんなに分厚くなかったんです。昔はそう考えられていたんです。
ところが、そのお2人が白血病にかかられた当時、僕が京大で物理を習った先生で、物理学者だけど静岡県の三島の国立遺伝学研究所のアイソトープ室長をやっておられた近藤宗平という先生がおられた。後に、そこから阪大の大阪大学医学部の基礎医学研究室の教授になられました。定年になられたあとは、大阪の南の方にある近畿大学の原子力研究所所長になられました。その方と私に調査依頼がきました。その時まだ農林省だったんですが、農林省のほうから調査依頼がきました。

 僕に頼まれたのが、ムラサキツユクサを使って、散乱放射線しか届かない高いところ、つまり直接ガンマ線が届いてないところ、それから周囲の土手の上、そのお2人を含む一般の人が作業をしているところ、つまり安全とされたところ、そこには対照区として放射線をあててない作物も植えてあったわけですが、そういうところで行う調査でした。微量な放射線の影響でも検出することわかってましたから、ムラサキツユクサを置いて、調べてくれと言う。

 近藤先生には、ガラス線量計というのを開発してもらいました。普通のガイガーカウンターとかでは、その瞬時瞬時の放射線量は測ることができますけど、何時間、何日間、何ヶ月間、何年間置いといて、総被曝がどうなるかという、総被曝線量、集積線量を測る機械は何もなかったんです。それで、ガラスの中に特別のいろんな化合物を入れて、いろいろ試しながら、近藤先生もエックス線を当てながら、これだけ当てたら、こんな色がでる。これだけ当てれば、こんだけでるという測定をしてくれました。それと、実際の生物効果と合うかどうかということで、近藤先生が開発されたガラス線量計というのを僕のムラサキツユクサに付けておいて、ムラサキツユクサに当てると同時に、そのガラス線量計にも線量を当てておくと、そういうことをやりました。

 ガラス線量計はそれでもまだ大きくて、8ミリ立方ぐらいあったんです。細い植物なんかにつけたら重くて折れちゃうぐらいなんですが、そういうのを使ってやったんですが、その当時はそれしかなかったもんですから、針にさした竹柱につけたガラス線量計で測りました。そしたら、ムラサキツユクサのそばの竹柱にガラス線量計をつけておいて測った線量と、ムラサキツユクサの突然変異率は、きれいに一致しました。

無力だった原子力施設の安全構造
 ガンマフィールド内でたくさんのガンマ線が出ていて、しかもその線量と突然変異の頻度の関係から、はじめは圃場内でできてる散乱放射線は、結構エネルギーが大きいんでわからなかったのですが、外まで遠くまで飛んでくようなのは、何度も衝突をしてコンプトン効果というのをやってエネルギーを落としてますから、ものすごくエネルギーが小さくなってる。そうしたエネルギーが小さくなってる散乱放射線ほど生物効果が高いということをその調査で証明したわけです。

 ですから、それまでの原子力施設の安全構造といわれてるものが無力であるということを証明したんです。その後、政府の方もアイソトープ施設とか、そういう施設には迷路状にしただけの構造ではダメだと。散乱放射線が絶対外に漏れないような構造にしないと駄目だということに変わっていきました。それが2番目の発見です。

講演録(4)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

エネルギーが小さいほど大きい生物効果
 次にかかったのは、アメリカから帰って来て京大にいる頃から埼玉大に移ってからにかけて、ずっと続けたんですが、それは速中性子、いわゆるここで起こったのと同じ中性子です。原子炉内で核分裂を起こす中性子は減速してスピードを緩めてありますが、核分裂してから出てくる中性子は、速中性として、何も障害物がなければそのまま速いスピードで飛んでいきます。その速中性子のエネルギーと生物効果の関係でした。

 速中性子として我々が一番得やすいのは、14.1メガエレクトロンボルトのものです。ややこしいですが、エレクトロンボルトというのはどんな単位かというと、小文字のeと大文字のVを書きます。エレクトロンは電子です。ボルトは電圧のボルトです。エレクトロンボルトというのは、どういうことかといいますと、1ボルトの電位差がある、それは普通使っている100ボルトの100分の1ですが、その1ボルトの電位差がある2点の間で、マイナスのエネルギーを持っている電子がプラスの方へ向かって飛んでいく時に、どれだけの運動エネルギーを得て飛んでいくか、その余分に与えられる運動エネルギー量を1エレクトロンボルトというんです。

 1ボルトの電位差があるときに電子が電気エネルギーとは別に獲得する運動エネルギー、それがエレクトロンボルトです。それで、メガエレクトロンボルトというのは100万倍の単位です。だから、14.1メガエレクトロンボルトの中性子というのは、1410万エレクトロンボルトを持ってる。そんな大きな運動エネルギーを持ってる中性子です。

 その中性子の生物効果は、普通のガンマ線とかエックス線と比べて、せいぜい3倍とか4倍ぐらいしかないんです。場合によっては、2倍しか生物効果を示さないことがあります。ところが、その中性子の出し方を変えることによって、もっと小さなエネルギーにして、14.1メガエレクトロンボルトからどんどん下げていって、僕らが実験したなかで一番低いのでは0.43メガエレクトロンボルトまで実験しました。そしたら、14.1メガエレクトロンボルトの中性子の生物効果、それもムラサキツユクサの突然変異で調べていったわけですが、それに比べて0.43メガエレクトロンボルトの中性子の生物効果、突然変異を起こす能力は、100倍以上の突然変異を起こすということがわかりました。

 中性子もまた、ガンマ線からコンプトン効果で出る散乱放射線と同じように、エネルギーが小さいほど大きな生物効果を与えるということがわかりました。ということは、ここで起こったことを想定しますと、まず少しでも中性子が外へ行くのを防ぐためにバリアをいろんな形で置きました。例えば土のうの中に鉛とか重い鉄を入れたのもありましたし、コンクリートのブロックを積み上げたのもありました。そして中性子がぶつかってエネルギーを失い、運動エネルギーを失っていくほど生物効果は大きくなっいたんです。もちろん、事故初期に出ていた中性子よりは、バリアによりずっと減っていましたが。

中性子による体内の集中被曝
 そして、エネルギーが落ちた中性子が我々の体の中に入ってきますと、すぐさま近くにあります水素の原子核とぶつかって陽子を追い出す。しかし、運動エネルギーが弱くなってきてますから、陽子を飛ばす力も弱いし、自分もまたぶつかって飛ぶ距離も短くなる。陽子も弱いエネルギーしかもらってませんから、ほとんど動かずにその周りで陽子線としてエネルギーを放出する。それから、中性子の方もほとんど動かなくなって、そこで何度も何度も、そばに水素はいくらでもあるわけですから、生物の体の中には、ごく短い距離範囲内でどんどん吸収されて、そこに大きなエネルギーを与える。

 だから、我々の体の中では、細胞単位でも組織の一部でもどこであれ、その組織が神経組織であれ、皮膚組織であれ、内蔵であれ、呼吸器官であれ、循環器官であれ、そういうどこであっても、その一部で集中的な被曝を受けることになります。しかも中性子を高い密度で受けますと、つまり大きな線量の中性子を受ければ、体のいたるところで集中被曝が局所的に起こるという現象が起こってしまうことになります。それが、さっきも話したように、中性子被曝の生物学的に一番危険な点なんです。

 ですから、ガンマ線に比べてエネルギーが大きい速中性子、速い速度を持ってる中性子は、速ければ速いほど強いエネルギーを持ってるから、高速中性子とも言うんですが、それはガンマ線の3倍前後の生物効果しか持ってなくても、さっき言った0.43メガエレクトロンボルトになると、ガンマ線の100何十倍かの生物効果を持ってることになります。そういうことも証明されています。

ムラサキツユクサの長所
 それから最後に、私が一昨年の3月の末でもって65歳で埼玉大学を定年になって名誉教授という形になってしまったんですけど、最後の8年間、僕がめざした放射線と化学物質とか、化学物質どうしの間の相乗効果というのをムラサキツユクサを使って証明しようとしました。というのは、いろんな化学物質であれ、放射線であれ、みんな単品の効果だけで、しかも十分な動植物実験もやらないで規制基準が決められているからです。

 不幸にして事故が起こった時に、それで起こったことと実際にガンマ線や他の放射線で起こったことを比較して丹念に調査すれば、ある程度推定できます。しかし、少数のサンプルからではきっちりしたものが出るとは限りません。

 実験は動植物を使ってやるしかないですが、それに一番いいのはムラサキツユクサで、ムラサキツユクサは何でそんな微量なことまでやれるかといったら、1つの花に6本のおしべがありまして、そのおしべ1本1本にたくさんの毛が生えてる。植田先生が以前、毎日毎日観察されてたわけですが、1本のおしべあたり、平均60本の毛があるんです。だから、6本のおしべにそれぞれ60本ぐらいの毛がありますから、6×60で360本の毛がある。そして1本1本の毛には平均で25細胞が一列に並んでる。360に25をかけますと9,000です。1つの花で9,000のおしべの毛の細胞を見れるわけです。100個の花を調べたら90万細胞は調べることができます。

 だから、ものすごい数を扱えて、しかも僕らが使ったのは青い色素を作る優性遺伝子と、ピンク色の色素しか作らない劣性遺伝子を1つずつ持たしてあります。それで、優性遺伝子と劣性遺伝子ですから、おしべの毛の細胞は花びらも同じなんですが、青です。ところが、優性遺伝子が放射線でやられると、たちまちその細胞はピンクになるという、そういう仕組みなんです。だから、90万のうち、いくつピンク色になってるか、もっと多人数でもっともっとたくさんやれば、何百万、何千万のうち、どれだけ突然変異が起こってるか調べることができる。だから微量放射線の影響がわかったんです。他の生物でそんなことができる生物はないんです。

 単細胞の大腸菌とかバクテリアを扱ってると数はものすごくいます。けれども、バクテリアの数を数える時にコロニーといって、細胞の集まりを作るコロニー数でしか数えられませんから、1つ1つのペトリ皿(シャーレ)だったら、せいぜい何十個とか、そのぐらいしか数えられませんから、正確に何細胞あたり、どれだけというのは決められないですね。コロニーにも大きなコロニーもある、小さなコロニーもある。みんな同じ大きさじゃないですからね。

改良したムラサキツユクサ
 そういうバクテリアでも不可能だったことがムラサキツユクサでやれたわけです。その長所を使ってさらに僕は材料を改良しました。青とピンクのヘテロに加えて、植物の一番下の節の長所を生かしたのです。節というのはフシです。竹のフシと一緒です。同じ単子葉植物の縦にしか葉っぱに筋が入らないツユクサ科の植物。皆さんがご覧になる春から夏にかけてコバルトブルーのきれいな花を咲かせるツユクサの仲間なんですけど。ツユクサにはおしべの毛はないんですけど、ムラサキツユクサにはある。ムラサキツユクサは北米産の植物なんですけど。

 とにかく、改良型を使って次々と証明をしたんですが、稲なんかでは分けつといいますが、新しい茎が一番下の節から出てくる。それがどんどん出る改良をしたわけです。次から次へと採ると、それを外したらまた出てくる。また外したら、また出てくる。出てきてある程度延びて、はじめは真っ白なのが出てくるんですが、光にあたるとすぐに緑色になります。光にあたって緑になったら、はがして分けた別の個体にするんです。また、次へ次へと、ほんとにどんどん出てくる。今言われているクローンなんです。遺伝子型が全く同じ。ムラサキツユクサを私はテスターとして、株を分けてしか増やしませんから、世界中で使ってるのは、みんな同じ株、クローンなんです。

 それで、どんどん増やして低レベル放射線よりもっと難しいといわれてた、違う化学物質同士、それから放射線と化学物質で同時に処理すると突然変異率が足した率、つまり加算効果だけで済むのか、あるいは相乗効果になるのか、あるいは相殺効果になるのか、それを調べていこうとした。ただし、僕が狙いをつけた点は1つありました。ある化学物質やある放射線が、遺伝子を作ってるDNAに対して、少なくとも部分的に共通の作用機構を持ってるもの同士では相乗効果になるはずだと。

放射線と化学物質の相乗効果
 例えば一方の突然変異を起こす要因を、ある量しか処理してないと、それがDNAに損傷を起こしたすぐ近くで、次の損傷を与えるチャンスがなかった場合は突然変異まで行かない。ところが、2つの要因で一緒に処理すると、その時の突然変異はどうなるかと調べたら、僕の狙いどおり、予測したとおり、少なくとも部分的に共通の作用機構を持つものを同時に処理しますと、両方足しただけの効果よりも、ずっとたくさんの統計学的にはっきり差がある相乗効果をどんどん見つけるのに成功しました。

 それで、いろんな化学物質と放射線の間、放射線の種類をかえてもこうだと、化学物質と化学物質の間、そういうたくさんの証明を最後の8年間に集中してやりました。僕はもともと原子力に反対ですが、その原子力を一生懸進めようとしてる、今文部省と一緒になって文部科学省となりましたが、その元科学技術庁には僕を恨んでる人がたくさんいたんですけども、僕は最後の8年間は、ずっと科学研究費補助金(科研費)というのをもらいまして、しかもかなり多額をとってました。というのは、そういう独創的な研究をしてる人というのは他にいないもんだから、付けざるを得なかったわけです。

 私は、埼玉大学に結局23年いたんですけども、23年のうち16年は科研費をとっておりましたし、最後の8年は連続でとりましたから、新しい研究材料を開発して、しかも液体培養で土も何にも使わないで育て、今までは鉢植えで置いてたら限られた個体数しか置けないところでも何百個体も置けるように、分けたクローン植物を挿して、ほんとに狭い面積でたくさん栽培し、自動的に培養液が循環するシステムを作り、環境条件もコントロールして、いつもどんな時でも同じ条件、処理条件以外は全部同じという条件を具えたのです。その機械も僕の設計で作らせたんですけど、科研費があったからできたのです。

相乗効果で教え子が博士号
 とにかく、それで相乗効果というのをたくさん知ることができます。それから、もう1つ、今朝も推薦状を英文で書いて、こっちに来る前に送り出してきたんですけど、僕のところで博士号を取った、埼玉大学に博士課程ができて僕の指導で第1号の博士号を取った沖縄出身のS.N.という女性なんですが、彼女がその実験をずっとやってくれた一人なんです。実験材料の改良も一緒にやってくれたんです。

 彼女はそれが認められて、博士号を取ったあと1年間僕のところでポストドクトラルフェローといって、日本ではオーバードクターとも言いますが、研究を続ける制度があるんですが、それで研究してましたが、次の年からはカナダのトロント大学に留学しました。新型肺炎が流行って問題になったとこです。ただしトロントで新型肺炎にかかったのは、あそこの中華街だけだったんですね。だから全部あれは中国系だったんです。ちょっとこれは余談ですけど、ある説によれば中国人をねらったのじゃないかとかね、そういう説も出たくらい。そんなことはないと思いますけど。

 とにかく、そのトロント大学の生物学科で3年間、ポストドクトラルの研究を、最初の1年はカナダ政府から、最後の2年間は日本の政府から、もちろん僕が推薦者になって、奨学金もらって続けました。現在はアメリカのザ・ジャクソンラボラトリーという、一番北東のすみのメーン州にある、ネズミ専門の遺伝の研究所なんですけど、そこに行ってもう3年になるんです。そこでも、ガンに関係した、あるいは染色体を不安定にする要因とか、そういうことについて、まだ遺伝関係の研究を続けています。その人が今度は研究だけじゃなくて教育もしたくなって、ボストン大学の医学部の教官募集に応募したいと言ってきたんで、緊急に今朝、推薦状を書いてボストン大学医学部の選考委員会の委員長に送ったんです。

人工化合物によるDNA損傷
 その次の人は中国から僕のところに留学してくれたS.R.という女性で、その彼女がやってくれたのが、バクテリアでは全く無害だけど、真核生物でほんとの細胞核をもっていて、DNAがヒストンというタンパク質と結びついて染色体という構造を作っている高等な生物では、バクテリアでは全く無害のものが危険なものに変えられるという、プロミュータジェンと呼んでいる化学物質に関する研究でした。ミュータジェンというのは変異原、突然変異を起こす物質。それの前という意味の「プロ」がついてるんですが、そういうものがあるというのがわかっていきます。

 バクテリアは、ぜんぜんDNAに損傷を全く与えない、安全とされてて、だからプロミュータジェンは、除草剤とか、そういう農薬に入ってたりしていたものもあります。そういうものの中で、高等生物では、体内で遺伝的に有害なものに変わってDNAを傷つけるものがあるということが最近わかってきました。それが1つ2つとわかってくると、その化学構造等から、これもその疑いがあるということが読めてきます。

 そのS.R.さんは、研究生を1年、修士課程を2年で終えると、Sさんよりは2年遅れてドクターコースに入ったのですが、とにかく彼女もがんばってくれた。僕が、この物質もプロミュータジェンの可能性があると、しかもこの化学物質がミュータジェンに変わったら、エックス線と相乗的に働く共通の作用機構をもってると、そういうことを予測しまして、まずプロミュータジェンかどうか調べる。哺乳類である人の場合は、その物質が体内に入ってきますと、肝臓の細胞中にミクロソームというのがあるんですが、その中でその物質が変えられて、そして突然変異を起こす物質に変わってしまうんです。

 ミクロソームは普通どんな働きをしてるかというと、天然に存在する毒物を無毒化するか、あるいは物によっては分解して害のない物に変えてしまう。そういう作用をしている。だから、体の防御のためにあるものなんです。ところが、プロミュータジェンと称する一群の全部が人工化合物です。天然のものは1つもありません。人間が石油から作り出した化合物です。

 それが、ミクロソームにいきますと、そこで普通の天然のものを無毒化する作用が、誤って地球上になかったものに対しては同じように作用すると、かえって有害な物に変わってしまうんです。だから人間が作り出した物は体の中に入ってくることによって、我々の体を守ってた、進化の途中で獲得した見事なシステムが、悲しい宿命に一変してしまう典型的な例なんです。Sさんは、いくつかのプロミュータジェンとエックス線との間の相乗効果を見つけました。また、植物では、どの細胞も過酸化酵素によってプロミュータジェンを変異原に変えることも発見しました。

あふれる人工化合物と放射線の危険
 ほんとに今は8万を超える人工化合物がこの世の中に出されてしまって、毎年1000以上の新しい人工化合物が加えられている。しかも、そのかなりの部分が放射線と相乗効果を持っているとなると、放射線にさらされる可能性が高くなればなるほど、さらに危険が高まるということになりますから、その相乗効果の研究を僕の埼玉大での最後の研究にしたというのは、そういうとこだったんです。

 そういうことで私は最初、さっきから言ったように、ムラサキツユクサという非常に優秀なものを見つける前には、一番最初にここの東海村のJRR1とかを使ってやってた頃は、まだまだわからなかったですから、非常に強い放射線をあてることによって、ものすごく放射線の効果というのは怖いものだと知った。しかも、やっぱり日本の場合は、広島・長崎の例がありますから、私も原水禁の副議長として、広島・長崎は30何年間も行きつづけてるんですけども。そういうことが頭にありましたから、どうしても放射線被曝のことを考えて、植物を使って、できるだけたくさんの放射線をあてて、どういうことが起こるかということを見てたんです。それが、東海村でやってた仕事なんです。最初、学生の頃に。

 ところが、アメリカの国立研究所へ行って、さっき言った新しく見つかった微量放射線の危険性、無重力の危険性は発表を禁じられたけど、そこで見つけたムラサキツユクサという非常に優秀な材料と出会うことができたんです。それは誰も気がついてなかったから、誰も使ってなかった。だけど、たまたま温室担当の技官が、間違って農薬を薄めないでかけちゃった。そしたら、ある植木鉢の同じ株だけが花びらにピンク色の斑点が現れたんです。

 僕は遺伝学者としてすぐわかったことは、いつも青いのにピンク色が出たということは、青い色素を作る優性遺伝子と、ピンクの色素を作る劣性遺伝子を1つずつ持ってるんだなと思いました。だから、優性遺伝子がやられたからその細胞はピンクになったと。それで、それを丹念に調べました。確かに青とピンクの遺伝子を1つずつ持ってるということを確かめて、それを研究に使いはじめて微量放射線の影響を証明できたし、NASAに頼まれての無重力の危険性も証明された。とにかく、ムラサキツユクサに出会うことによって、まずそれができた。そして、2つとも発表禁止になりましたけども、1つ目の微量放射線の影響については、この茨城県の常陸大宮で実験的に証明するのに成功しました。

放射能濃縮のこわさ
 それから、人工放射性核種というのは、ものすごく体内に濃縮するということを発見したのは、さっき触れたムラサキツユクサの原発周辺での実験だったんです。日本でもアメリカでもドイツでも、なぜ同じことになったのかというと、主たる原因が放射性ヨウ素だということがわかりました。はじめは、そういうことは日本の原子力の安全審査で全く考慮されてませんでしたが、放射性ヨウ素がものすごく濃縮されるというのは、実際には1959年にアメリカの核兵器関係の工場なんですが、そこで大量の放射性ヨウ素漏れの事故が起こっていました。

 そして、2つの研究グループに調査が依頼されて、そこの報告は1960年にはアメリカの原子力委員会に届いていました。しかし、その2つも私の場合と同じように公開されることはありませんでした。ところが、私が1978年にたまたまいろんなところに講演旅行をしていた時のことなんですが、ワシントンまで行ったもんだから、その日の午後から講演があるその前に、昔のAEC、74年に解体されて今のエネルギー省と原子力規制委員会に変わっているんですが、そこに行ったら今まで秘密になってた資料を順次公開している。今日、公開するものもあると。それで僕は、そこに入る時には身分証明書を見せなければいけないんです。僕は、ブルックヘブン国立研究所のIDナンバーというんですけど、それを持ってますから、それを言いますと、ブルックヘブンにいたサダオ・イチカワだなということで、君は見る資格があると。一般に公開する前でも。それで10時からしか見せないということだったんだけれど、資格があるということで見せてくれた。

 すごく分厚いファイルを持ってこられて、そんなの全部丁寧に見れるわけないんですけど、すごいなと思いながら、何かちょっとでも有益なものがないかなと思って見てたら、マーターという人の報告書で、放射性ヨウ素の濃縮についての報告がありました。それでデータを見ていくと、何とマーターさんの場合では、サバンナリーバーというところで1959年に起こった事故なんですが、そこで1週間前後で植物の種類によって違いますが、作物、自然の草、木も含むんですが、植物種によって200万倍から650万倍にも濃縮してたという報告です。

 それにビックリして、その前後に何かないかなと思って、次を見たらソルダットという人の署名が入ってる報告書で、その人の場合は350万から1000万倍、植物の種類によって。それで幅を見ると200万から650万というのと、350から1000万倍ですから、両方の幅をとれば、200万から1000万倍に1週間程度で濃縮してしまうということがわかったんです。

 それで、それまで1974年から静岡の浜岡で実験して、東海でも後に行われて、なぜそんなに突然変異が実際に原発の周りで増えるのかと、僕はたぶん天然にはない人工の放射性核種の中には、放射性核種のない元素だったら生物は安心して、どんどん体内に入れて使ってるはずだと、そのことは考えてたんです。だから、いつも原発の周りで実験をやってくれた人たちには、そのことを言ってたんです。

講演録(5)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

高濃縮される放射性ヨウ素
 原子炉の中で核分裂の結果出てくるものは、もちろん自然にあるものと同じ放射能を持つものもあります。だけど、それはごくわずかで、ほとんどが人工放射性核種といって、核分裂させなければできない放射性の核種なんです。核種というのは原子核の種類なんです。それには目をつけてましたけども、現実にワシントンのNRCの図書室みたいなつくりの部屋で公開しようというのを見て、バーンときました。原発の周りでムラサキツユクサの突然変異率を上げてるのは、圧倒的に放射性ヨウ素だとわかったんです。なぜなら、その当時、皆さんには、周りの人には放射能を出さないと言ってきました。だけど法律を見ていただいてもいいように、法律上は、固体廃棄物は「可能な限り」というより、ほとんど全量を廃棄物としてドラム缶等に収めることができます。それで、液体はどうしても漏れてしまう。

 例えば外へ戻すのに本来なら冷却水には漏れないはずなのに、ピンホールかなんかあいて、そこから少しずつ漏れて出てしまう。だから、液体も一部は出てます。ただ、原子炉の中で水漏れがあったりして、それをプラスティックの手袋をして雑巾を絞ったとか、そういうのはドラム缶に納められるわけですから、そのまま外には出ませんが、例えば関西電力のような加圧水型でピンホールがあると、一次冷却水と二次冷却水が混ざってしまう。一次冷却水の水が一部二次冷却水に出てってしまえば、当然それはそのまま外に出ていきます。液体の一部は出ます。だけど、気体廃棄物は環境中に廃棄すると、はじめからそうだったんです。

 だから、ヨウ素を吸着するフィルターは当時は使われていませんでした。私たちが実験をはじめた頃は。そして、そのムラサキツユクサの実験結果が出て、ようやく活性炭フィルターがつけられるようになりました。活性炭フィルターがつけられる前は、希ガス、不活性気体といって、クリプトンとかキセノンという元素の放射能を持った核種で、それは不活性気体ですから何も捕まらない。化学反応をまったくしませんから。なぜ原発が石炭も石油も燃やせないのに煙突があるのか、その希ガスというのを、できるだけ高いところに出して、人が住んでるところにあんまり降りてこないようにする。そのクリプトンとかキセノンという希ガスが圧倒的大部分で、当時ムラサキツユクサの実験を原発周辺でやってたころの希ガスと放射性ヨウ素の放出比は、1万対1の比率でした。不活性気体1万に対して、放射性ヨウ素は1しか出てない。

 だけど先程のワシントンで見た、やっと公開された当日に見つけた資料からいけば、仮に気体の中に出されるのが、不活性気体が1万で、放射性ヨウ素が1だとしても、不活性気体は体の中に入ってきても何も反応しませんから、化学反応しませんから、体の中の濃度と空気中の濃度は同じはずです。だから1万のまま留まります。ところが、放射性ヨウ素は1万に対して1しか出てなくても、これは200万から1000万倍まで濃縮されたら、放出量が1万分の1だからそこまでしかいかないんですけど、200から1000倍になってるわけです。そうでしょ。濃縮で200万から1000万倍になりますから、1万に比べたら1万の200倍から1000倍にもなるわけです。 」


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