日本の選挙がこれほど活発に取り上げられることも珍しいように思う。
やはり日中の対立が戦争にもつながりかねないという状況の下、新たな政権がどのようなものになるのか、憂慮しているということだろう。
そして日本の政治状況、政治の質の低さに本当に呆れていることだろう。
「3年前の衆議院選挙では民主党が地滑り的な勝利を収め、54年間ほとんど途切れることなく続いた自民党支配を終結させた。
マツモト・タカシさんにとって、あの出来事は別の時代のことのようだ。千葉県出身の看護学生のマツモトさんは2009年、日本経済を再生させるとの公約に引かれて民主党に1票を投じた42%の有権者の1人だった。だが、日本が12月16日の投票に向けて準備を進めている今、あの時の高揚感は彼にはない。
民主党には失望したが、他党には困惑
「どの党を支持すればいいのか分からない」。郵便局員や消防士の仕事を経験した後、先行きの明るい分野に進もうと学校に入り直したマツモトさんはこう話す。「みんな民主党には失望している。でも、それに取って代わるほかの党には困惑している」
衆院選まであと10日。まだ投票先を決めかねている有権者は多い(写真は福島県いわき市で街頭演説する民主党代表の野田佳彦首相)〔AFPBB News〕
2009年以降の民主党政権で3人目の首相である野田佳彦氏は、リーマン・ショック以来3度目となる景気後退の瀬戸際に日本経済を追いやった。
財政赤字は2008年以降で5倍に拡大し、国内総生産(GDP)比でほぼ10%に達している。
マツモトさんが慎重になるのも無理はない。総選挙の投票日を12日後に控え、合計で12の政党が候補者を擁立しており、中には数日前に誕生したばかりの党もある。
そして2009年の選挙とは異なり、主要政党の経済政策には明確な違いがほとんど見られないのだ。
政策の違いの大半は、しつこいデフレに立ち向かうために日銀はどの程度積極的に金融を緩和すべきかという問題にかかわっている。
日銀の金融緩和を巡っては大きな違い
自民党総裁の安倍晋三氏は、インフレを引き起こすことを自身の経済政策の中核に据えている。物価がひとたび上昇し始めれば、日本企業は再び従業員を雇い始め、資金を借りて投資を再開するだろうというのが同氏の主張だ。
自民党は、2%のインフレ目標を達成するまで「無制限」の金融緩和を日銀に求めるとしている。
民主党は自民党よりも融和的な姿勢を打ち出しており、物価上昇率の目標は1%で十分だと述べている。民主党のマニフェストによれば、同党は日銀と「一体で」この達成に向けて努力したいとしている。日銀の独立性を取り上げるとか、もっと大きな使命を与えるという安倍氏の脅しとは一線を画した格好だ。
だがこの分野でさえ、両党の差は見かけよりも小さい。前原誠司経済財政担当相は、金融をもっと緩和するよう日銀に公然と圧力をかけている。その一方で、安倍氏は日銀に対する極端な見方を一部後退させている。
選挙綱領が曖昧で選択が困難
ほかの分野では、各政党の選挙綱領はかなり曖昧で、情報に基づいて選択するのが難しくなっている。
民主党、自民党、公明党、そして新たに結成された日本維新の会は皆、今後数年間で約3%の名目成長率を達成したいと考えている。目標達成に向けては、民主党が引き続き再生可能エネルギー、医療、農業に重点を置く一方、その他の主要政党はインフラに重点的に取り組む構えだ。
財政支出に関しては、民主党、自民党、公明党が揃って、国家財政を持続可能な状況にするための長期計画を維持しつつ、日本経済をてこ入れするために来年早々に補正予算の編成を求めることを約束している。
2014年4月から段階的に消費税を引き上げる合意で手を組んだ主要政党は、基本的に社会保障と税の一体改革に関する3党合意に縛られている、と三菱東京UFJ銀行のストラテジスト、関戸孝洋氏は言う。
一方、主要政党は民主党を苦しませたような具体的な公約を避けている。子ども手当や高速道路無料化など、いざ政権の座に就くと実行が至極困難なことが分かった政策だ。
2009年に政権を取る前、民主党は歳出をほぼ17兆円減らすと誓っていた。ところが同年9月には、中央政府の概算要求が総額98兆円に上り、過去最大だった前年実績の98兆5000億円からほんのわずか減っただけだった。
一方で、日本の公的債務残高はGDP比約240%に膨れ上がり、どの先進国よりも債務比率が高くなった。
「既得権と戦うとか、本物の構造改革を追求するとか、一部の人にとって痛みを意味するような話は聞かない」とJPモルガン証券のエコノミスト、足立正道氏は言う。
また、緊密な経済統合を目指す国が集まる環太平洋経済連携協定(TPP)に日本が参加すべきか否かを巡っても、各政党は意見が割れているようだ。野田氏は、TPPその他の自由貿易協定の追求を目指すと述べたが、自民党は農業、漁業の支持基盤からの反発を恐れ、もっと曖昧な発言をしている。
有権者は政治情勢にうんざり
しかし、中央大学で政治学を専門とするスティーブン・リード教授は、どちらのテーマも恐らく浮動票を刺激しないだろうと述べ、世論調査で20%を超す支持率を集めている政党はないと指摘する。教授によると、有権者は、政策に大きな違いがないまま移ろう政治情勢にうんざりする可能性が高いという。
「選挙は日曜日なんでしょう?」と言うのは、マツモトさんのクラスメートのウチヤマ・アツコさん。「私は多分、クリスマスの買い物をしているでしょうね」
By Ben McLannahan
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