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●記憶喪失になったぼくが見た世界~失ったものと得たもの 【川西】

2011年08月11日 16時40分15秒 | 川西教室
7月16日(土)に川西アステホールでおこなった
「記憶喪失になったぼくが見た世界~失ったものと得たもの」
のリポートをお届けします。


 ひとは記憶を失うとどうなるのでしょうか。18歳の時、交通事故に遭った坪倉優介さんは、10日後に意識が戻ったものの、重度の記憶喪失と診断されました。自身や家族の名前、過去の記憶だけではなく、言葉の意味、昼夜の時間の概念、喜怒哀楽の感情までも失ってしまいました。記憶喪失では、「陳述記憶:知識として覚えたもの(名称など)」が失われることが多いのですが、坪倉さんは「手続き記憶:生活習慣を通して覚えたもの(服の着方など)」も同時に失ったのです。熱い冷たいの感覚がわからず、冷たい水風呂に入ってしまったり、味覚や満腹の概念がわからず、出されたものはすべて食べてしまったなどの具体的なエピソードを話してくださいました。

ご家族に支えられ、電車に乗る、お金を使う等社会生活の基本も一から学び直し、やがて美大に復学しますが、何でも知りたくて相手を質問攻めにしてしまうため、怒り出す学生も多かったようです。そのような経験から、相手の表情を注意深く観察するようになり、笑顔の人を見ると、とても心地よくなったので(そもそも「笑顔」という概念自体がわかりません)、自分も同じようにやってみようと、鏡を見ながら真似をしたのが、坪倉さんにとっての初めての笑顔だったとのこと。

「自分の名前や過去の出来事が思い出せない」~ドラマや映画を見て、私たちが漠然と想像している記憶喪失と現実は何と違うのだろうという驚き…。手記の中で、坪倉さんのお母様は、「記憶を失くすということは、単に過去を忘れて今を生きるということではありません。過去を失うと、人はこれほどまでにもろい存在なのかと思いました」と述懐されています。

大学卒業後は、京都の染工房で修業し、沖縄やヨーロッパを旅しながら、染料や技術を学びましたが、海外では、身辺に危険を感じ、「ヤバイことに巻き込まれるかもしれない」と思うようなこともあったそうですが、「これができなければ、染色作家として独り立ちしていけないと思った」とのこと。その精神力と行動力こそ、坪倉さんの原動力だと思いました。

現在は、日常生活に何の支障もなく草木染作家として精力的に活動されていますが、18歳以前の記憶は今も完全には戻っていないそうです。ひとつひとつ身につけてきたことも、自分の感覚は正しいのだろうか、という疑問がいまもあるそうです。

参加された方との質疑応答では、「これをしてはいけないという倫理の規範はどのように身につけたのか」など真剣な応答が約40分続きましたが、気持ちのこもった、実にこころを打つエピソードの数々を話してくださいました。アンケートでは、「何の疑問も抱かず日常を過ごしているが、それらすべてが白紙になることは想像を絶する」「質疑応答が実によかった」「人生を自由に創造したいという意欲がわいた」などのお声を多数いただきました。

一般向けの講演会は初めてということで、「講演が決まった時から今日までずっと緊張していた。途中で何を話しているのかわからなくなったらどうしようか不安だった」そうですが、びっしり下書きされたメモを持参され、「これを着るといちばん落ち着く」という黒い作務衣と陣羽織で臨んでくださいました。東京、岡山など遠方からのご参加もあり、10代から80代まで幅広い層の方にご参加いただきましたが、「皆さんの眼がとても真剣で、途中からメモが全く見れなくなってしまったけれど、あたたかな表情に囲まれてとても感動した。<ここで感じた色>が、これからどんな風に染まるのかが楽しみです」 講演前の数日は、食事ものどを通らず、眠れないほど緊張されたそうですが、そんなことは少しも感じさせない、のびのびとしたお話ぶりでした。
ご受講いただいた皆さま、お忙しい中、ご出講いただいた坪倉優介さん、素敵な印象深い時間をどうもありがとうございました。またお目にかかる機会を楽しみにしています。

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1 コメント

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Unknown (ミニマム)
2011-09-03 01:19:57
私も行きたかったです。きっとここに参加していた人にとって忘れられない思い出になったんじゃないでしょうか。
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