歌わない時間

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椰月美智子『るり姉』

2013年02月28日 | 本とか雑誌とか
椰月美智子『るり姉』(双葉文庫)読了。「本の雑誌」2009年上半期エンターテインメント・ベスト1だそうですが、わたしはそれほどまでにいいとは思えませんでした。あざとさを感じた。

全体は五章に分かれ、それぞれ、語り手が替わる。「るり姉」の姪三人、その姪たちの母である「るり姉」の姉、そして「るり姉」の夫。それはまあいいんですけどね。最初の章で「るり姉」が深刻な病気にかかってしまうのですが、その病気がどうなったか明かされるのは、とんで最後の章なのですよ。途中の三章は、三人娘とその母の一家の生活ぶりや、三人娘と「るり姉」とのかかわり、「るり姉」の結婚、などが時をさかのぼって語られる。その間、読者は「るり姉」が生きているのか死んだのか分からないまま、一家の思い出話に付き合うことになる。

この語りの手順こそがこの小説のキモで、椰月さんはたぶんこの工夫をまづ思いついて、それから中身のプランを練っていったんではないでしょうか。でもちょっと、わたしはこのプランには心動かされませんでした。

たしかに、ティーンエイジャーである三人姉妹のリアル・ライフはよく書けている。三人姉妹と叔母の「るり姉」のかかわり方も、ああこんな感じの叔母・姪のつきあいはあるんだろうなあと思った。でもそこに、登場人物の病気で読者を引っ張る、ってワザを持ち込まれたせいで、感動がうすれました。