歌わない時間

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新田次郎『つぶやき岩の秘密』再読

2013年02月19日 | 本とか雑誌とか
新田次郎『つぶやき岩の秘密』再読。かつて新潮少年文庫で出会ったなつかしい本が、ようやくようやく新潮文庫に入りました。三浦半島の西南部の海辺の村を舞台とする少年小説。海の好きな少年・紫郎の成長を語る。潮の干満についてのゆたかな知識はいかにも紫郎にふさわしく、また作者・新田次郎にふさわしい。冒険あり、謎解きあり、殺人事件まで起こる。けれどざわざわした感じはしなくて、むしろ詩情あふれる風情。今読んでもやはり面白い。

しかしこのたびもっとも衝撃を受けたのは、同書、中島京子さんの「解説」にあった次の件り。「ちなみに小説中の白髯さんの家のモデルは、当時三戸浜にあった三浦朱門の別荘だそうである。」──三浦朱門の別荘というのは、つまり曾野さんの例の「海の家」で、曾野綾子のエッセイや小説に親しんでいる者には「ああ、あれね」とすぐ思い当たるところ。『つぶやき岩の秘密』の風景と、『太郎物語』や『神の汚れた手』『傷ついた葦』などなど曾野さんの小説の風景が思っていた以上に重なっていたことを知って驚く。

新潮少年文庫のうち、読んだとはっきり憶えているのはこの『つぶやき岩の秘密』と星新一『だれも知らない国で』のふたつで、『だれも知らない国で』のほうはわりと早くに『ブランコの向こうで』と改題されて新潮文庫に入っていました。まあ、読めないよりはずっとマシだ。あと、新潮少年文庫に結城昌治『ものぐさ太郎の恋と冒険』があり、これについては丸谷さんの書評をどこかで読んだけど、『ものぐさ太郎の…』そのものはいまだ読むにいたらない。ほかに吉村昭『めっちゃ医者伝』というのもあったはず。この少年文庫のシリーズは、昭和四十年代の後半、ハードカバーに、しかも箱がついて、500円という値付け。当時としても格安だったと思いますよ。当時の装幀で、シリーズまるごとリバイバル復刊してくれないかなあ。