歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

平岩弓枝『下町の女』

2011年06月09日 | 本とか雑誌とか
平岩弓枝『下町の女』(文春文庫)読了。1970-72年の連作。平岩さんも若いころの小説のほうが読みごたえがあるなあ。筋を売るだけではなくて、登場人物にちゃんと血が通っている。昭和40年代の花柳界を背景にした話で、もちろんわたしには未知の世界のことですが、幸田文『流れる』を読んだときのような特別な違和感は、ここにはなかった。

藝者屋のおかあさんであり自身も売れっ子藝者である「こう」と、娘の桐子の話。ショックなのは主人公のこうが四十代後半から五十にさしかかろうかという年齢設定で、作中「人生の老いの坂を迎えて」と表現されてしまうこと。まさにわたしが今そのあたりなのだ。「老いの坂」…。執筆当時はこれでおかしいことはなかったのだろう。

発表後ほどなく、東芝日曜劇場で8回にわたってドラマ化されていますが、わたしは見たことありません。こうは杉村春子。桐子は吉永小百合。TBSのサイトに当時のスチールがアップしてありますが、杉村春子は四十代には見えないよ。それに、やっぱりそんなに美人でもないと思う。

それから『下町の女』でも藝者さんたちは人力車に乗る。『流れる』といっしょだ。なお平岩弓枝は『流れる』が舞台化されたときに脚本を担当している。