松井冬子展「世界中の子と友達になれる」に行ってきました。
正直、あの空間を埋めるだけの点数があるのか?それが気がかりだったのです。
でも、ちゃんと100点以上もの作品が展示されていて、構成もなんと9章まで。
入口のところでリストを見てびっくりしたというわけです。
そして、キャプションは松井自身によるものだとのこと。
★絶え間なく断片の衝突は失敗する
もやっとした澱のような山。
手前に髪と人の肌みたいなものが見えるが特定は出来ない。
解決のない状況を提示されてもやもやとしてしまう。
もっと明瞭であればという望みは決して適わない。
そんな遥か向こうにあるもの。
★呼鈴
これはもっと近くで見たかったです。
かなり暗いトーンで黒っぽい。
手前にその対極ともいえる明瞭なピンクの桜の花びらがいくつか舞う。
子宮回帰云々とあったがその意図するところはちょっと微妙。
女性だとまた感想が異なるであろうか?
★思考螺旋
逆さになった長い髪。
ただただ圧巻。
キャプションにあったようにこんなのが天井を走ってたら怖いだろうに。
幽霊を感じさせるがほぼ髪だけの描写で魅せてしまう。
★世界中の子と友達になれる
冒頭のチラシに登場していた作品。
藤の花がきれいと思ってよーくみ見ているとそのぶら下がった下が蜂であることにびっくりする。
左に少女、右にゆりかご。成長の変容?
だとすると藤から蜂への変容とはなんだろう?
実現不可能なこのタイトル自身が抱えたものなのだろうか。
章になっているだけあって本作の下絵が充実。
やはりと思ったのが画面における少女とゆりかごの位置。
ちゃんとパターンを試されていました。
このコーナーは習作や下絵を中心とした構成。
★「遊蟲図」のための下図
これ、完成したのを見てないのでどうなったのかが気になります。
クワガタとその向こうの蝶。
どことなく本気でやり合うのではなく戯れている感じが出ているんですよね。
★髪
確かチャリティに出してた?団扇。
木の団扇に黒の細い墨線で描かれた髪は異様。
ちょっと柳のようにも見える。
★構想
椅子にかけた女性が体を開いて臓物を出している。
ただし、紙に鉛筆なので色彩のない状態だと生っぽくはない。
印象がだいぶ異なるのですよね。
★腑分図:乳児 前面
タイトル見て何て悪趣味なんだろうと思ったら、想像を超えてて唖然!
なんと羽が生えてる!
でキャプションを見たら、「天使の解剖を描いた。」なんて書いてある。
★従順と無垢の更新
これ、今回一番衝撃だったかも。
木、臓物、雲などいろいろなものに近い感じはするのですが、ここまでくるともうほとんどオリジナルの造形みたいなもの。
左右対称のこの何者かは妙なことにスプレーで描くグラフィティの文字なんかにもちょっと通じるかのよう。
花を描いたときに臓器とボーダーレスになる予感はあったけどもまさかここまで突き抜けるとは。
★この疾患を治療させるために破壊する
夜中の千鳥ヶ淵の桜。
お堀に映る桜と同じようでいて、微妙に異なる実像と虚像。
何度見てもくらくらします。
今回、3点の新作が公開されました。「浄相の持続」とほぼ同じ構図でその後が描かれていました。
★應声は体を去らない
一瞬、植物に人物にかかる白いのは雪だと見えました。いえ、ウジなのです。
でも、これはもっと丁寧に描いて欲しかった。蠢いてる感じはちょっと薄いように思いました。
肉体が生命によって還元されていくシーンの始まり。
★転換を繋ぎ合わせる
骨になってがらんどうの眼窩を蛇がくぐりぬけている。もう、虫などが喰らうところはない。
ただ静かに横たわる骸骨の全身。
★四肢の統一
ついには頭蓋骨と背骨のみ。
脊椎動物の生命の進化と細胞分裂からの成長過程でのアナロジーにかけているのか?
月が静かに見つめてる。
★ナルキッソス
植物の絵画ですがやはり異様です。
朽ちつつあるかなのか?もちろん普通の形の花もあるものの、花びらの変形して開いた様が妖しく目につのです。
花びらの揺らめく様が炎のようにチロチロと。
★喪の寄り道
いつもの女が裸で倒れてて臓器が出ちゃってるってモチーフは変わらないものの、曲線の描写に見とれる作品でした。
桜の木の上のほうは枝が上方目指してゆらゆらと炎のように。
右奥へと伸びる黒っぽい雲のようなものは流水っぽいフォルムながらも独特で特徴がある。
★生まれる
出口のすぐ隣に展示されていた小品。
ヤゴから脱皮してるとんぼ。
よいしょって感じで前向きでとてもよし。
どろどろとした作品ばかりを見た後のデザートというところでしょうか。
とても清々しい気持ちに戻れました。
横浜美術館の前にある土地は現在工事中。
工事の仕切の壁にはこんな風にアーティストの言葉が掲載されています。
もちろん、松井さんの言葉も。
3/18まで。
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