田中一村の作品はこれまでほとんど見ていない。
たぶん、掛け軸が1点くらいとかそんなレベル。
NHKで取り上げられて急に人気になったという意味で、石田徹也が一瞬頭をよぎった。が、時代も作風も全く違う。石田は早く亡くなっているし、一村は最後は奄美で没している。そして、他の作家とは明らかに異なる作風。
こういった部分をうまく説明することで火が点いたのだろう。
ということで、先日9/23に行ってきました。
朝一の開館前に行けばなんとかなるだろう思い会場に到着するとエレベーターの手前にある吹き抜けのホールにすでに人が並んでいました。
たしか9:45頃、50人以上は並んでいたと記憶している。ただし、チケットは持っていたのでエレベーターで上がった後はすぐに入口に並ぶことが出来た。
本来なら10時にオープンだったがひとが溢れかえってしまうことを考慮してか、9:55に開場していた。
こういう現場判断、とても好感がもてますね。
さて、リストを手に入れてびっくり。なんと参考や特別出品までふくめるとその点数が250点を越えている。
のっけから8歳とか9歳の頃に描いた短冊にやられてしまう。
やはり絵描きになる者なのだなあと実感。
当初は南画であったが、そうではないと考えた彼は支持者(すでにそういうひとがいるくらいの腕前だったのに)に今後、展開する画風を見せるも理解を得られなかったという。
その後、千葉へと移り、最後は奄美へ。
時期によって作風がここまで変わっていくことに驚く。
だが、それが正解であったことは奄美で確立された作風を見れば明らかだろう。
気になった作品についてメモより。
○秋色
秋の持つ寂しさがなんともよい。この雑多な要素がたくさんあるけどうるさくなくきちんとまとまってる。
○菊花図
花びらのひゅるりとなった様やよし。
○燕子花図
これが一番想定外だったかも。
燕子花の紫よりも、茎の緑!!この描写、最強。
濃淡の出し方で得られるゆらぎのあるグラデーション。
このトーンの別の作品や見たし。
○秋晴
金地をバックして描かれるシルエット状の家屋と木々。
大根の白がかわいい。
○榕樹に虎みゝづく
榕樹というのはガジュマルのこと。
ガジュマルはモノトーン。この絡み合う蔦のような構造で深みが出ている。
虎みみずくは全体を俯瞰しており、ガジュマルとセットでこの画面に置いては絶対者なのだ。
右下のこの花の白いのが映えている。
○枇榔樹の森
カラーだけどモノトーンにしか見えないこの葉の描写。画面左に見える蝶と下方の花のみ色彩が宿っていて輝いて見える。
でも、この葉のほうが主役に見える。
幾重にも折り重なり、方向も違い、複雑になる光線。
飽きずにじっといつまでも見ていられる。
○不喰芋と蘇鐡
この色彩は何だろう?
日本画をやっていた画家がこんななまめかしい感じをくっきりとした色彩で見せることが出来るなんて。
ちょっとだけだけど、ルソーの「蛇使いの女」を思い浮かべた。
南方の植物、妙に引き込まれる幹事という部分では共通しているだろう。
○アダンの海辺
ポスターやチラシで見られるメインビジュアル。
この作品の近くに置かれた一村の書状がいい。
落款がないのはこれを描いてサインする気力さえ残っていなかったからという記述あり。
画面のかあなりの部分を覆いつくすこの不安な祝物のこれまた不安定なフォルム。
そしてどうしても印象に残るこの黄色い味。
砂浜と海は澄んだ美しさがあるが、全体に出ているのは妖しさと引き込まれてはいけない南の魅惑。
一村の恍惚と憂鬱が同時にあるような気がしてならいのだ。
泣いても笑っても本日9/26で終了!
明るいだけじゃない、湿り気の多い南の島の空気が伝わってくるようで、
今度は奄美で見てみたいと思いました。
何か独特の秘めたかのような感じがあるんですよね。魅惑と何かいけないものとが入り混じるかのような。
>今度は奄美で見てみたいと思いました。
現地の風土でみるとまた印象が違ってきそうですよね。