北Qえれじー ~ 国分寺 編 ~ by Akira Io

写真家・ロシア語通訳あきらの日記。
南インド古典音楽の聖地チェンナイより帰国し、現在は国分寺に居住!

インドのモーツァルト上陸

2007年07月18日 11時24分51秒 | カルナータカ音楽(南インドの古典音楽)
あろはです。
あきらです。

昨日ラヴィキラン様ご一行も東京に着いている予定で、いよいよカルナーティック気分も盛り上がってきました~!
ということで、先日「インド通信」第345号に掲載していただきましたラヴィキランに関する文章を、そのまま転載いたします。
公演は、東京、大阪、長崎県佐世保の三公演。
日本では、めったに観れない南インドの古典音楽「カルナータカ音楽」のコンサート。
観に行けるチャンスのある人は、お見逃しなく~!!

写真は、チェンナイのラヴィキラン氏の自宅で撮影したもの。
彼の前にある楽器が、チトラヴィーナー!!
スライドバーはテフロン製だっ!!




「チトラヴィーナー・ラヴィキラン来日!」     写真・文 井生 明



「あなたが神を信じないのならば、ラヴィキランを見るがよい」。

 あのシタールの巨匠ラヴィ・シャンカールをして、このように言わしめた男がこの7月に来日する。チトラヴィーナー N.ラヴィキラン。南インドの古典音楽(カルナータカ音楽)で使われる楽器チトラヴィーナーの演奏者である。
チトラヴィーナーとは、ヴィーナーとほぼ同じ形の撥弦楽器で、音程を決めるフレットを持たないのが特徴。メロディーを奏でる演奏弦が6本、リズムの調子を取るドローン弦が3本、共鳴弦が11本から12本と、三層構造に配置され、合計20本から21本の弦を持つユニークな楽器である。あぐらをかいて座る演奏者の前に水平に楽器を置き、左手にスライドバーを持って弦に触れ音程を定め、右手中指と人差し指につけた鉄のつめで演奏弦をはじいて演奏する。フレットが無いためインド古典音楽に特有のポルタメントな表現に適しているが、その微妙な音程をキープするには並外れた技術、集中力が必要とされる。ラヴィキランは今回、自身でデザインし、デリーの著名な楽器メーカー「リキラム」に製作を依頼した愛器「ナヴァ・チトラヴィーナー」を携えての初来日となる。
 1967年、祖父・父親も同じくチトラヴィーナー奏者という家系に生まれたラヴィキランは、現在ではカルナータカ音楽の音楽家としてチトラヴィーナーだけでなく、ボーカリストとしてもコンサートを行い、さらには作曲者としての顔も持つ鬼才である。海外公演歴も豊富で、北インドの古典音楽家や欧米のミュージシャンとの共演も多数ある。
1969年、このラヴィキランが南インドで一大センセーションを巻き起こす。舞台となったのは、チェンナイ(当時マドラス)の権威あるホール「ミュージック・アカデミー」。大御所の音楽家達を前にして、ステージ上にちょこんと座る2才のラヴィキランは、325のラーガ、175のターラを全て識別し、人々の度肝を抜いた。その時の様子を見て、ラヴィ・シャンカールが発した言葉が冒頭のセリフなのである。
 「ラーガ」・「ターラ」とは南北インドの古典音楽に共通する重要な概念。簡単に言えば、ラーガとは一種のスケールのようなもので、上行形と下行形が違うもの、一度上がって下がりまた上がったりとジグザグに音が動いていくものなど、音の運行に関する細かい規則がある。ターラとは一定のパターンを持ったリズムサイクルのことで、8拍子、3拍子、5拍子、7拍子といった基本的な拍子だけでなく、もっと拍数の長い複雑なターラも数多くある。
常識的に考えれば、2才というのは、普通にしゃべることすらままならない様な年齢。天才・奇才があふれるインドとはいえ、そのような幼児が、複雑なラーガやターラを聞き分けたということで、ラヴィキランが神童と騒がれたのも無理もない。その衝撃のパブリック・デビュー後は、5才の時にボーカルでデビュー・コンサートを行い、10才の時に初の作曲。以来、現在に至るまで500曲近くを生み出し、その多作ぶりから「インドのモーツァルト」とも呼ばれている。12才の時には、チトラヴィーナー奏者へと転向し(1999年にはボーカリストしての活動も再開)、ボーカルスタイルに基づいた端正な演奏、完璧を求める真摯な姿勢などにより、インドのみならず海外でも多大な評価を受けている。
 さて、彼が演奏するカルナータカ音楽。実際にコンサートを観たことがある人は、日本でもまだ少ないのではないだろうか?カルナータカ音楽は南インド、主にタミルナードゥ、ケーララ、カルナータカ、アーンドラプラデーシュの4州にて親しまれている古典音楽。その主奏者の多くがボーカルであるが、器楽もあり、ヴィーナー、チトラヴィーナー、笛等に加え、メロディー伴奏に使われるバイオリンも時にはメインとして演奏されることもある。主奏者は主に18世紀後半以降に作曲された曲を歌い(演奏し)、既作曲の部分と即興にて演奏される部分の割合はほぼ半々である。イスラームの影響を強く受けた北インドの古典音楽と違い、古くからの南インドの音楽的特色を今なお色濃く残していると言われる。
今回の公演では、ラヴィキランに加えてリズム伴奏としてベテランのムリダンガム奏者バクタヴァッサラームと、人気No.1のガタム奏者カーティックの3人での来日となる。ムリダンガムとは、横胴の両面太鼓でカルナータカ音楽のリズム伴奏には欠くことの出来ない重要な楽器。打楽器でありながら、右手・高音側で6つ、左手・低音側で3つの音色を出すことができ、それらの音の複雑なコンビネーションは見ものである。
 ガタムは、土に鉄粉などを混ぜて焼き上げた壷を、手の指や掌で叩き音を出す楽器。見た目は何の変哲もないただの茶色い壷。だがそれがガタム奏者の手にかかると様々な音色を放つ「魔法の壷」になってしまうから不思議だ。これら日本では見ることができない打楽器と、それらによる算術的なリズム分割も日本公演での見所の一つ。特にパーカッション好きの人は、コンサートでのメインの曲の最後を占める「タニ・アヴァールタナム」と呼ばれるパーカッションソロの部分は必見。現地では、観客も一緒に手を打ちながら拍を数え、その美しいリズムを楽しむ。
 さて、最後にインド流古典音楽の楽しみ方を少し紹介したい。南北問わずインドの古典音楽では、観客は客席でじっとしてはいない。演奏中でも一緒に歌ったり、曲の拍子に合わせて手を打ったり、さらには音楽家が良い演奏をするとそれに合わせて、感嘆の声(サバーシュ!、バラ!など)を上げたりする。これは音楽家同士でも同様。打楽器奏者の演奏に主奏者が声を上げることもあるし、またその逆も然り。音楽家・観客がともにステージを作り上げていくとも言え、感嘆の声を上げることにより、両者ともに相乗効果で盛り上がっていくのがインドならでは。今回の来日公演、さすがに現地インド流とまではいかないだろうが、インド風でも、もちろんOK!「インド通信」読者の方々も、是非とも観客席からステージを盛り上げていただきたい!!
 今年40才を迎え、今まさに音楽家として円熟の時を迎えつつあるラヴィキラン。そして、現在の南インド古典音楽シーンを支える二人の打楽器奏者。とにかくこれは見逃せない公演となるだろう。

ラヴィキラン公演は、7月20日(金)東京、銀座「王子ホール」、21日(土)大阪、「フェニックスホール」、23日(月)長崎、佐世保「アルカスホール」。総合問い合わせは、カンバセーション03-5280-9996。

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