雨の日に帰ってくると
玄関でぞうきんが待っていてくれる
ぞうきんでございます
という したしげな顔で
自分でなりたくてなったのでもないのに
ついこの間までは
シャツでございます という顔で
私に着られていた
まるで私の
ひふででもあるかのように やさしく
自分でそうなりたかったのでもないのに
たぶん もともとは
アメリカか どこかで
風と太陽にほほえんでいたワタの花が
そのうちに
灰でございます という顔で灰になり
無いのでございます という顔で
無くなっているのかしら
私たちとのこんな思い出もいっしょに
自分ではなんにも知らないでいるうちに
ぞうきんよ!
(まど・みちお全詩集・1993年5月・第8刷・理論社刊)より。
(初出・まど・みちお詩集4 物のうた・1974年・銀河社刊)
(1982年・かど書房より再刊・1部改稿)
寝る前になんとなく読んでいて、思わずはじけるように笑った!
2度3度読んでも、同じテンションで笑いがはじける。
……ということは、これはわたくしにとって名詩です。
自分ではなんにも知らないでいるうちに
ぞうきんよ!
たしかにそうかもしれない。
我が家では、着古したシャツやタオルやシーツなどは、適当な大きさに切ってから、
ガスレンジの汚れ、調理後のフライパンの油取り、あるいは使い捨てのぞうきんにする。
ティッシュペーパーやキッチンペーパーの節約になる。
まどさんのおうちのつつましい生活の風景が、こちらにも繋がってくる。
ましてや、夫の着古したシャツを切っているわたくしを、夫は「鋏を持った魔女」を見る眼で見るのである(笑)。
まどさんも「ぞうきん」になったシャツを見て、魔法使いの存在を感じたかしら?