昭和48年8月10日発行 第5刷 850円
発行者 大橋鎮子
発行所 暮しの手帖社
これは、昭和43年8月、「暮しの手帖・96号」の全ページをあてて、読者の戦争体験を募集して、特集号としたもので、いつもなら80万部の購読者であるが、この号はさらに10万部を追加するほどの売れ行きだったそうです。それを「保存版」として5年後に改めて、一冊の本にしたものです。さらに申し上げれば、亡き我が母の本棚にあったものを形見として、私が今日まで大事に持っていたものです。今後もさらに。
何の特集かと言えば、読者より募った、あらゆる角度からの「暮しのなかでの戦争体験」を特集したものです。学者や作家が書いたものではありません。文章を稚拙と言うではない。これらの手記を書かれた方々のすべてに言えることは、伝えることへの真剣さに加えて、読む方々への誠実さと真面目さに心を打たれます。
空襲、子供の疎開生活、悲惨な食糧と日用品の事情、家を失った家族たち、家族を失った人々、酷悪な交通事情、まだまだ書ききれないほどの声が聞こえてきます。たくさんの市井の人々が命を落とし、あるいは命の危険にさらされ、こんな事が二度と起きてはならないと言う声が輪唱のように聞こえてきます。戦争がどれほど愚かなことかを、一冊全体から聞こえてきます。
あの戦争を国家とか軍部とかによる歴史の一部と捉えるのではなく、それらに翻弄され、命も幸福も自ら守れなかった人々こそが、歴史なのではないか?
この特集を企画した「暮しの手帖社」と、それに応えて投稿された方々に、改めてお礼を申し上げます。戦後20数年後とは、人々がやっと戦後を乗り越え、生き抜いてこられて、戦争体験を言葉にできる時でもあったのでしょう。セピア色になってしまったこの本を、今後も大事に致します。