第一部・2
それはほとんど少女のようで、歌と七絃琴(リラ)との
一つに融けた幸福のなかから生まれ、
春のうすぎぬを透いてかがやき、
わが耳のなかにしとねをのべた。
そしてわたしのうちに眠った。すべては彼女の眠りだった。
わたしがかつて嘆賞した樹々も、この
まざまざと感じられる遠方も、素足で触れた牧場も、
わが耳に覚えたひとつびとつのおどろきも。
彼女は世界を眠っていた。歌う神オルフォイスよ、覚めようとする気配もなかった。
どのような完全のわざをもってあなたは彼女を造ったのか、
生まれ出て、そしてそのまま眠ったとは。
どこに彼女の死はある?おお、あなたの歌が
歌われて尽きてゆくまでに、死という主題が見つかるだろうか?――
彼女はどこへ、わたしを離れ、沈んでゆく・・・・・・ほとんど少女のように・・・・・・
(翻訳:生野幸吉)
そしてほとんどひとりの少女、それが
歌と竪琴の一体になった幸福のなかから現れ、
春のうすぎぬをとおしてあかるく輝いて、
私の耳のなかに臥床をしつらえた。
そして私のなかで眠った。するとすべてが彼女の眠りだった。
私のかつて賛嘆した樹々も、こうして
感受される遠方も、あの感触された草原も、
そしてこの私を打った驚きのひとつひとつも。
彼女は世界を眠った。歌う神よ なんと完全にあなたは
彼女を創られたことだろう、目覚めようとは
彼女が望まぬほどに? 見よ 彼女は生まれ そして眠ったのだ。
どこに彼女の死はある? おお あなたの歌が尽きないうちに、
あなたは思いつかれるだろうか この主題をも?
どこへ彼女は私のなかから沈んでゆく? ・・・・・・ほとんどひとりの少女・・・・・・
(翻訳;田口義弘)
オルフォイスが歌い、かつ奏でる美しい音楽のなかから生まれた少女。この少女の眠りは「死」でもなく、さりとて「生」でもないだろう。すでにここでは時間が意味を持たない状況ではないだろうか?またこの「少女」そのものが姿を持たないひかりのような存在で、しかしこの上なくやさしく美しい抽象的存在であって、すべては孤独な詩人の内的世界で創りあげられてゆく精神の状況ではないか?
詩人の耳はさまざまなものに満たされてゆく。樹、神殿、少女の臥床・・・・・・しかしそれはすべて詩人の内面へと沈んでゆくのだろう。