塵埃落定の旅  四川省チベット族の街を訪ねて

小説『塵埃落定』の舞台、四川省アバを旅する

阿来の初期短編 『守霊夜(通夜)』

2018-11-15 00:45:32 | ケサル
『守霊夜(通夜)』 1988年 (要約)

4月、山の中の小さな村。村人たちが遺体の納められた棺が届くのを待っている。
その遺体は、この村で育ち、他の村で教師となり、車の事故で亡くなった男性・貴生。彼の教え子で今教師をしているグサンドルジェが付き添っている。

通夜の夜、多くの村人が棺の守をするが、その中で貴生の死を最も悲しんでいるのは章明玉だった。彼は、解放の時に内地からこのスルグ村に分配され教師となり、貴生はじめ多くの子供を教えた。教え子の多くは幹部となっているが、貴生は怖がりの優しい子で、教師となったが出世はしなかった。かれの父親はやはり車の事故で早くに死に、母と妹はよその地に行ってしまったが、貴生はこの村に埋葬されるのを望んだという。

章は悲しみと酒の勢いとで周りの者に悪態をつき、疎まれる。だがそこには自分の生き方への自責の念と教え子への想いがあふれていた。

貴生の教え子グサンドルジェは後に教育局で職を得る。章は52歳の時に女性問題で処分を受ける。だが、30年教師をしたことによりもとの村に留まることを許された。少年だった阿来は後にこの小説を書くことになる。この夜のことが彼の中でもっとも強く印象に残っていたと書かれている。

あの通夜に集まって来たのは、貧農協会のバオロン、退役軍人ヨンツォン、大隊長ガルロ、そしてまだ少年の阿来もその中にいた。彼らはスルグ村の村人として、他の物語にも登場する。

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やはり阿来はフォークナーのヨクナパトーファのように、この小さな村を通して壮大な物語を描きたかったのだろう。
中国の歴史に翻弄されながらも、東チベットの地にしっかりと息づいた人々の姿をもう少し肉付けしていきたい。
それがどのように『塵埃落定』へと結実していくのか、まだ謎はたくさんある。