11/7(月) 17:00夕刊フジ
東京都健康長寿医療センター
荒木厚副院長
【健康寿命 75歳の壁を乗り越えよう】
今回は、要介護の大敵である「メタボによるフレイルリスク」について、東京都健康長寿医療センターの荒木厚副院長に聞いた。
■肥満でフレイルに
秋はつい食べ過ぎて体重が増えやすい。運動不足が重なると肥満領域の体重に突入する。BMI(体格指数=体重kg÷身長mの2乗)で「25」以上は肥満とされ、身長170センチの人なら体重73キロ以上に相当する。
太っていて身体ががっちりしていれば、痩せている人よりも体力がありそうなメージを持つ人もいるだろう。しかし、肥満の人もフレイル(心身の虚弱)に陥りやすく、健康寿命を縮め、要介護リスクを上げてしまう。
「痩せている人は体力が低下しやすいのですが、太っている人も、腰痛や膝痛などで身体活動能力が低下するとフレイルに陥りやすいのです」
こう話す荒木副院長は、東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科の外来で長年、肥満やメタボな患者を数多く診ている。
■予防のギアチェンジ
「肥満や糖尿病などを合併したメタボリックシンドロームの方は減量のために運動習慣と食事制限が欠かせません。ところが、フレイル予防では体重を維持してタンパク質などを含め、食事をしっかりとることが求められます。つまり、予防が相反しているのです」
肥満やメタボは痩せなければいけないが、フレイルは体重が減ってやせてしまうと悪化する。フレイル予防のために食べ続けて運動不足のままでは、当然のことながら、肥満やメタボは解消しにくい。肥満&メタボとフレイルを同時に予防するのはとても難しいのだ。
「肥満やメタボはフレイルリスクがあることを意識して、中年期の早い段階で改善・予防に努めましょう。65歳未満と65~74歳のプレ高齢者の一部が肥満やメタボ対策をしっかり行う。75歳以上はフレイル対策に切り替えることが重要です」
■2型糖尿病治療薬で改善
そもそもメタボは、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患を発症するリスクが、そうでない人と比べて約3倍といわれる。フレイルは要介護のリスクを上げるが、脳卒中も認知症に次いで要介護の原因の第2位に位置する。また、中年期の肥満が認知症のリスクを上げるとも報告されている。つまり、メタボを改善するとフレイル、認知症、心血管疾患の3つの要介護リスクを下げることにつながるのだ。
「現在、2型糖尿病の治療薬は、食欲を抑えながら体重も落とすことができるものがあり、血糖値コントロールに取り組みやすくなっています。メタボも解消しやすい。健康診断で異常値を指摘された場合は、放置せずに適切な治療を受けていただきたいと思います」
肥満やメタボを改善して75歳の壁を乗り越える。健康長寿を伸ばしたならば、さらに高齢期の健康維持のためにフレイル予防に励む。それが、生涯続く健康寿命に寄与する。
「2型糖尿病の治療で75歳の壁を乗り越え、現在、90歳以上で元気に過ごされている患者さんはたくさんいます。元気に長生きを実現するため、メタボは放置しないようにしましょう」と荒木副院長はアドバイスする。
■荒木厚(あらき・あつし)
東京都健康長寿医療センター副院長、フレイル予防センター長兼務。
1983年京都大学医学部卒。英国と米国留学などを経て現職。
主な専門分野は、老年医学、糖尿病、病態栄養。