2/24(水) 12:10 Medical DOC
参照記事 https://news.yahoo.co.jp/articles/bdcc3839ccf77fc6a82cd83939258de8bdc7d87e
「月経前症候群(PMS)」とは、生理前に感じる身体的・精神的症状の総称です。これらは人により違いますし、毎回異なる症状に悩む方もいらっしゃるでしょう。そうなると、「画一的な処方薬が有効なのか」という疑問を拭いきれません。そこで、西洋薬に限らず漢方薬も多用するという「土屋産婦人科」の土屋先生に、投薬療法の最前線を教えていただきました。
【土屋 眞弓先生(土屋産婦人科 院長)】
北里大学医学部卒業、昭和大学大学院医学研究科修了。産婦人科勤務などを経た2013年、東京都練馬区に位置する「土屋産婦人科」の院長を承継。「Total Care For Women」をモットーとし、患者が最初に門をたたく「気軽なよろず相談室」となるべく、診療にあたっている。医学博士。麻酔科標榜医、日本医師会認定健康スポーツ医。日本産科婦人科学会、日本美容皮膚科学会、日本東洋医学会の各会員。
「とりあえずお薬で様子見」ではなく、「あなたならこの漢方薬」
編集部:
月経前症候群(PMS)で、漢方薬を処方するケースってあるのですか?
土屋先生:
当院において、漢方薬はむしろファーストチョイスですね。PMSの多くは原因が明らかでない「不定愁訴(ふていしゅうそ)」のため、有効な西洋薬が“原則として”ありません。ホルモン剤などで女性ホルモンの働きを止めてしまう方法も考えられますが、妊娠を希望している方にとっては逆効果です。加えて、ホルモン剤とほかの西洋薬との“のみあわせ”も懸念されます。
編集部:
そもそも、漢方薬と西洋の薬の違いってなんでしょう?
土屋先生:
漢方薬は、過去の経験則から「この症状には、これが効く」と認められてきた生薬です。そのため、症状ごとに漢方薬を決めていきます。対する西洋のお薬は、研究や治験から「この原因には、これが有効」と確認された成分です。こちらは、原因となるターゲットごとに、お薬を絞りこむイメージでしょうか。
編集部:
漢方の着眼点が「症状」だとすると、その有効性はPMSに限らないですよね?
土屋先生:
そうなのですが、不定愁訴、つまり原因不明の場合は、ターゲットも不明ですよね。したがって、PMSと西洋薬の相性は悪く、逆に漢方薬との相性がいい人もいらっしゃいます。そういう人は、むしろPMSの症状ごとに漢方薬を変えるべきでしょう。
編集部:
「漢方薬で進めよう」という決定は、誰がおこなうのですか?
土屋先生:
医師が治療選択肢の中に含めるものの、最終的に判断するのは患者さんです。東洋医療をどれだけ取り入れているかという、医院や医師の考え方にもよりますけどね。漢方薬は西洋薬との併用が可能なので、治療の幅を広げると考えています。副作用もほとんど知られていません。
代表的な漢方薬の一例
編集部:
PMSに対して処方される代表的な漢方薬を教えてください。
土屋先生:
まず代表的なものが、「加味逍遙散(カミショウヨウサン)」という漢方薬です。こちらは「産婦人科の三大漢方薬」の1つで、気逆という精神的に不安定な症状に有効とされています。「気」というメンタルな部分が、上半身や頭部に“集まりすぎている”ので、これを鎮めます。具体的には、イライラやのぼせ、動悸(どうき)などに効果的ですね。ほかにも、「抑肝散(ヨクカンサン)」というイライラに特化した漢方薬もあります。怒りっぽい、興奮しやすいなどの精神症状全般に有効とされています。
編集部:
ほかにもあれば教えてください。
土屋先生:
下半身の冷え、生理痛、生理不順、のぼせ、肩こりなど、血の流れが上半身や頭部に集中している症状に有効なのが、「桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)」という漢方薬です。
また、血に限らず、体内の水の流れが滞っている症状を改善する漢方薬で「当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)」というものもあります。こちらは冷えが代表的な適用例ですが、血行障害やうっ血のほか、むくみ、だるさなどにも使われます。
編集部:
生理前の頭痛も気になるところです。有効な漢方薬はありますか?
土屋先生:
当帰芍薬散と同じく、水分の偏りをならす「五苓散(ゴレイサン)」という漢方薬があります。気圧の変動で頭痛を起こす方にも適しており、PMSとは関係ないですが、二日酔いの頭痛にも効きます。また、当帰芍薬散よりも、むくみに有効的です。
都度のオーダーメイドだからこそ、医師への相談が不可欠
編集部:
たくさん種類があるのですね。ところで漢方薬って、市販されていますよね?
土屋先生:
個人的な意見ですが、市販の漢方薬は信用していません。漢方薬の処方は、その人の症状と体質ごとに決めていくのが原則だからです。市販薬には、誰でも一定の効果があるように「全部入り」にしている一方、「どっちつかず」の側面も否めませんよね。
編集部:
PMSの症状がいつも違う場合、どうすればいいでしょう?
土屋先生:
毎回、処方を受けてください。症状が違えば漢方薬も違うので、そのときどきに合ったお薬を選びましょう。全く別の漢方薬をお出しすることもありますし、前回のお薬に別のお薬を加える場合もあります。
編集部:
漢方薬で得られた体質って、服用をやめても続くのですか?
土屋先生:
慢性的な体質改善のために、一定期間は漢方薬をのみ続ける必要があります。ただし、頭痛のような「そのときだけの困った急性症状」に対しては、頓服薬のような使い方で構いません。詳しくは、処方時にご説明します。
編集部:
最後に、読者へのメッセージがあれば。
土屋先生:
漢方薬は、自己判断で選ばず、医師と相談しながら決め“続けて”いきましょう。漢方薬が「効かない」と感じるのは、おそらく、適切な漢方薬を選べていないからです。文字にしてしまうと同じPMSでも、症状によって漢方薬の処方はまちまちです。
編集部まとめ
どうやら、PMSだからこそ、漢方薬が有効と言えそうです。漢方薬は、原因を問わず、出ている症状に働きかけます。当然、国もその効用を認め、原則として保険の適用が可能となっています。また、自分にあった漢方薬のオーダーメイドを希望してもいいかもしれません。「MY漢方薬」という意識で、PMS軽減に努めてください。