黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

S大前期授業 ⑤二風谷のクマ送り

2021年08月03日 16時45分55秒 | ファンタジー
 1977年の二風谷で、1頭のクマ、いや偉大なカムイのために大きな祭りが執り行われた。この喜びと感謝の気持ちに満ちあふれたアイヌのクマ送りを見て、これほど環境への負荷を軽減した文化は他にないと改めて感じた。開発を伴うSDGzの理念や取り組みをはるかに超えている。
 なのに、このクマ送りに実力行使をしてまで反対する動物愛護団体が存在したとは。彼らは、生き物を殺す側に組しないのが正義だと考えているのだろうが、現代においても動物からの恩恵なくして人は生きていけないし、ましてや原始の狩猟採集社会では、クマ送りをはじめ、動物祭儀は生活の根底を支えるための特別の儀式だった。それらのことを異文化側に身を置いて考えようともしないとは、実に不寛容な人々であると思う。
 しかし、そう主張する私自身が、アイヌの人々の世界観である、あらゆるものにラマッが宿り、死を迎えたら別の世界に飛んでいく、という思想を共有できるかといえば、それは相当困難だ。先祖は原始時代に生きて、他の動物たちと食い食われる関係にあったのだが、そんな当然のことさえすっかり忘れてしまった。
 萱野さんと二風谷の皆さんが作ったイヨマンテの映像はすばらしかった。花矢を放ち終わり、最後の矢をクマの心臓に向けて射る場面は、私の胸にもグッと迫るものがあった。3日間にわたる祭りの中で、集落の人々が次第に熱狂していく様子には、彼らが同じ世界観を共有する姿を見たように思う。祭りは単なる過去の再現ではなかったのだ。
 アイヌの女性が、いっしょに暮らした仔グマとの別れを悲しむ場面も心に残った。クマが喜び勇んでカムイの国に帰っていくという確信と、クマとの別れを悲しんで涙を流す気持ちとの間に何ら矛盾するものはないことを、本物を見て十分納得できた。(2021.8.3)



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