なかなか本を読み通せない。読み出してすぐページを閉じたままになっている本の方が圧倒的に多い。それでも少し読んだ分、雰囲気だけはなんとなく頭に残る。10年たったら、何ページ読んだかなんてすっかり忘れてしまい、いかにも物知り顔でその本について語ることもある。
福岡伸一氏の「動的平衡2」を珍しく読破した。特別おもしろかったわけではない。本を閉じたら、帯に印刷された福岡先生の顔が迫ってきて、もう止めるのかと言っているような気がしたのだ。
もちろん、ぜんぜんつまらなかったのではない。
動物の起源とは。植物や微生物は自前でほとんどのアミノ酸を合成できるのに、動物は進化の過程でその能力あえて捨てた。一見すると進化でなく退化なのだが、体内で合成できないから食物を追い求める「動く生物」の誕生につながった。
DNA複製時に発生する傷やミスコピーは、通常、修復システムによって発見され取り除かれる。このシステムが完全に働けば、がんは発生しなくなる。しかし、同時に生命にとって進化の可能性が消えるという致命的なことが起こる。進化しなければ種の滅亡が待っている。
といったところは示唆に富んだ論考だと思う。
何と言っても福岡先生の文章は美しい。彼の「生物と無生物の間」は学術書の域を超え、詩的な雰囲気をまとっていまだに私の記憶媒体によみがえる。(2019.3.18)