BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

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2010年12月14日 | 古本
 作家と読者においては、最初がどの作品との出会いだったかが重要なのかも知れ
ない。その一作品で他も読んでみたくなるか、その逆だったりするだろう。アタシ
のように、その時棚に在ったものを手当たり次第の古本漁りは、必ずしもその作家
の発刊順に作品を読むなんてことにはならない。
 しかしこの作家さんとの出会いは理想的だった。すべて古本ではあったがノン
フイクション系の「聖の青春」「将棋の子」「優しい子よ」「ドナウよ、静かに
流れよ」などを涙ながらに読んだ。そしてそのあいだに他の小説も挟んだ。
 しかしもし、この「ランプコントロール」と最初に出会ったとしたら、多分もう
大崎 善生の著作を続けて読むことはなかったのかも知れない。
 大崎さんこの小説はひど過ぎます。一体誰に向けてこんな小説を書いているので
しょうか。「婦人公論」2008年から2010年までの連載だったことにヒント
があるとすれば、これは婦女子向けのつもりなのでしょうか。
 道東の昆布盛で漁をしていたお兄さんや、道の駅に泊まり夜明けと共に出発して
行ったトラックの運転手さんや、公園のベンチに座り顔を手で覆って微動だにしな
かった不思議な少女や、何も持たず早足で歩き突然踵をかえして歩き続けたお姉さ
んに、この小説が何かを届けられるとは到底思えないのだ。勿論アタシにも。
 新宿の高層ビル群の灯りがみえる高円寺のアパートメント、銀行と出版社に就職、
ドイツフランクフルト空港、個性的だが無害な同僚達、申し分ない二人の美人恋人。
それはなにかカタログ雑誌に載っているようであり、スタイリストが整えたモデル
ハウスの室内といった按配の生活感がない恋愛小説なのだ。そしてSEXシーン
だけが妙にリアルだ。(これはこれでチト嬉しいが。笑)
 大崎さん、この作品、誰に読んで欲しかったのでしょうか。誰に向けた小説で
すか。「婦人公論」の読者をナメてませんか。手の内がいつも同じでミエミエの
恋愛小説より、また面白いノンフィクションを書いて下さい。

 「ランプコントロール」 著者 大崎 善生 中央公論新社 定価1600円+税
  ( 2010年7月25日 初版発行 )