帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(21)きみがため春の野にいでて若菜つむ

2016-09-17 18:47:27 | 古典

               


                            帯とけの「古今和歌集」

                    ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 
「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。それは、言葉では述べ難いことなので、歌から直接心に伝わるよう紐解き明かす。


 「古今和歌集」巻第一 春歌上
21

 

仁和の帝、親王におましましける時に、人に若菜賜ひける御歌

きみがため春の野にいでてわかなつむ わが衣手に雪はふりつつ

光孝天皇、お若くていらっしゃった時に、或る女人に賜われた御歌

(きみのために、春の野に出て、若菜摘む、わが衣の袖に、雪は降りつづいていた……あなたのために、春の野にでて、若菜摘む、我が衣のそでに、白ゆきはふりつづいていたよ)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「きみ…君…男女ともに用いる人称代名詞…あなた・貴女」「若菜…若い女…菜・草の言の心は女」「つむ…摘む…採る…引く…めとる」「ころもて…衣手…衣の袖…衣の端」「衣…心身を包むもの…心身の換喩…心と身…あなたを妄想する心と生の本能のある若き身」「雪…冬の景物…逝き…白ゆき…おとこの情念」「つつ…継続を表す…反腹を表す」

 

早春の若菜摘みに、淡雪の降る風情。――歌の清げな姿。

 

若き親王が若菜摘まれた時の身辺の情況は、普通の言葉では言い表し難い。もし言い表せばけがらわしいと思われるだろう。

この歌の「心におかしきところ」が、相手の女性に伝われば、洋の東西を問わず史上最も強烈な求愛の歌となるだろう。先ず、その女性のお付きの世慣れた女房たちの心身に確実に伝わるだろう、そうすれば求愛成就間違いなしである。

 

「やまと歌」は、人のほんとうの心根を見事に清く言い表せる「和歌」という高度な文芸の形式を、万葉集以前から持っていたのである。和歌はわが国の誇るべき文芸であるが、近世・近代の学問的解釈の風土に覆われて埋もれたままなのである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)