帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(15)春立てど花もにほはぬ山里は

2016-09-10 19:34:47 | 古典

               


                            帯とけの「古今和歌集」

                    ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 
「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。それは、言葉では述べ難いことなので、歌から直接心に伝わるよう紐解き明かす。


 「古今和歌集」巻第一 春歌上
15

 

(寛平御時后宮歌合の歌)         在原棟梁

春たてど花もにほはぬ山ざとは ものうかるねに鶯のなく

(立春の日はきたけれど、花も色美しく咲かない山里は、もの憂い声で鶯が鳴いている……張る立てど、お花もいまだ匂はぬ、山ばのをみなは、もの憂くかるる根のために・もの憂い声で、憂く秘すが泣いている)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「春…はる…暦の立春…張る」「花…木の花…梅…男花…おとこ花」「にほはぬ…色美しく咲かない…匂わない」「山ざと…山里…山ばの女」「さと…里…言の心は女…さ門…おんな」「ものうかる…気が進まない様子で…辛そうな感じに」「かる…接尾語(ようすで)…涸る…おとろえる…離る…よそよそしくなる」「ね…音…声…根…小枝…おとこ」「に…(音)で…(根)のために…(根)により」「鶯…うぐひす…春告げ鳥…鳥の言の心は女…浮く秘す、憂く泌すなどと戯れる」「なく…鳴く…泣く」。

 

梅が枝のつぼみ、もの憂く鳴く鶯の声、山里の早春の風情。――歌の清げな姿。

張るたてど、つぼみのおとこ花、山ばのをみなは、ものうくかれる根のために憂く泌すが泣く――和合ならぬ有様は、歌の心におかしきところ。

 

在原棟梁は、在原業平の子。古今集巻頭の歌を詠んだ元方の父。歌の「心におかしきところ」は、大江千里の歌に優るとも劣らず奥深い。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)