帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの『金玉集』 雑(七十七) 貫 之

2013-01-11 00:11:15 | 古典

    



             帯とけの金玉集



 紀貫之は古今集仮名序の結びで、「歌の様」を知り「言の心」を心得える人は、いにしえの歌を仰ぎ見て恋しくなるだろうと歌の聞き方を述べた。藤原公任は歌論書『新撰髄脳』で、「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」と、優れた歌の定義を述べた。此処に、歌の様(歌の表現様式)が表れている。

公任の金玉集(こがねのたまの集)には「優れた歌」が撰ばれてあるに違いないので、歌言葉の「言の心」を紐解けば、歌の心深いところ、清げな姿、それに「心におかしきところ」が明らかになるでしょう。



 金玉集 雑(七十七)貫 之

 大はらやをしほの山の小松ばら はやこだかかれ千代の影見む

 (大原の神の社や、藤氏の山の小松原、はやく木高くなれ、千代のお蔭を受けましょう……大はらや小しほの山ばの、少年少女たち、急いで小高くなあれ、千夜の陰を見るでしょう)。


 言の戯れと言の心

「大はら…大原…大原野神社…藤氏の氏神…大腹」「や…音数などを整える添え字」「をしほの山…小塩山…春日山と同じく藤氏の氏神の鎮座する山…小しおの山ば」「小松…少女…土佐日記(二月十六日)でも小松は女児」「松…待つ…女」「木…男」「ばら…原…達(複数の人を表す)…腹」「はや…早…早々に…早く」「こだかかれ…小高くあれ…木高くなれ…大腹になれ」「高木…おとなの男」「大腹…おとなの女…孕んだ女」「千代…千世…千夜」「影…光…威光…栄光…帝、為政者の恵み…お陰…陰…ほと」「見る…身に受ける…体験する…娶る…まぐあう」「む…意志を表す…推量を表す」。


 歌の清げな姿は、成人式での慶びのことば。それだけでは歌ではない。

歌の心におかしきところは、娘腹に皇子誕生を男君には子孫繁栄までも言祝いだところ。


 後撰和歌集 慶賀。つらゆき。詞書「左大臣の家のをのこ女ご、冠し、裳着けるに」。


 藤原実頼の男の子と女の子が同じ日に成人式(十二~十六歳)を行った時の祝い歌である。この時の男子は公任の父頼忠か、その兄の敦敏でしょう。女子は、やがて女御、后となった。

 
 この歌は周囲のおとな達を和ませ、歌を依頼した実頼をご満悦にさせたことでしょう。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  『金玉集』の原文は、『群書類従』巻第百五十九金玉集による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。