終 戦
にのみや あきら
大人しかった人たちが急に威嚇めいてきた
どこに隠しておいたのか日章旗ににせた国旗を
昨日まで路地裏で
小さくなっていた子供たちが
腰のまわりに何本も差し
胸を反らせて闊歩した
この国は俺たちのものだ!
日本人は自分の国へ帰れ!
これからは俺たちが大将だ!
勝ち誇った韓国人の変身ぶり
ロシア兵の残忍さ
アメリカ軍の不気味さを深刻に話し合う親たち
その影で、事の重大さが解っていない僕は
閉鎖された学校へは行けず
友達とも遊べず
腑に落ちない不安を抱いて
空虚な時を過ごした
女子供は外出してはならない
チョコレートを持ったアメリカ兵が
戦車で街に侵入し
怪獣の行進で威嚇した
誰が主催したのか
お別れ会の劇の配役を口伝てに聞く
だが両親の反対で
うやむやに葬られてしまった
僕の役は誰が演じてくれたのだろう
その後の様子は遂に耳にしなかった
お別れ会は流れてしまったに違いない
命を駆け
誰のために
何をなすためにこの国へ渡ったのか
あれから七十年
顔も名前も色褪せた同胞たちは
本土のどこへ散って
どんな暮らしをしているのだろう
今頃、幸せそうに孫を抱いているのか
それともすでに大地に帰り
天国で夢心地に
浸かっているのかもしれない
そんなあなたたちと
もう永遠に会う事もなくなってしまった
いずれにしても
無慈悲に祖国へ追われたあなたたちの役目は終った
僕もこんな懐古に耽る年齢になった
だがあの国で経験した
あの不安や恐怖は
あの悪夢は
僕の脳裏に鮮明に焼きつき
永遠に色褪せる事はないだろう