帝京大学医学部付属病院病院長で、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」の作成にも
携わった藤森新氏にお話をうかがいました。
◆痛風は、20~30代の若い世代にも増えている
1960~70年代の調査では、40~50代で初めて痛風になる人が目立っていました。そこから、
「痛風=中高年の病気」といわれるようになったわけです。ところが、1990年代に東京女子
医科大学が行った調査では、発病年齢のトップは30代でした。20~30年間で、10~20歳も
若年化しているのです。
最近では同様の調査がないので不明ですが、おそらくさほど大きな変化はないでしょう。
ちなみに、若い女性の患者が少ないことも痛風の特徴です。閉経前の女性は、女性ホルモンの
影響で尿酸値が上がりにくいからです。
最近になって、痛風になりやすい体質が遺伝することがわかってきました。身内に痛風患者が
いれば自分も必ず痛風になる、というわけではありませんが、痛風になりやすい素質を持って
いる可能性は高いと言うことができます。
ただし、遺伝とは関係なく、生活習慣が原因で痛風になる人も多く見られます。
それは、太っている人、アルコールを飲む習慣のある人などです。アルコールというのは、
特にビールですね。さらに、レバーなどのプリン体を多く含む食品をよく食べる人も、
痛風になりやすいタイプです。プリン体はうまみ成分ですから、おいしい物に含まれている
ことが多いです。
◆痛風を引き起こす「プリン体」「尿酸」とは
プリン体は細胞の中の核酸などに含まれる成分で、細胞が生まれ変わる新陳代謝の際に
使われます。プリン体は身体に悪い物質だと思う人が多いですが、実際は、生物が生きて
いく上で欠かせないものなのです。プリン体はもともと体内に存在するほか、食物として
外からも摂取され、体内での活動を終えていく過程で最終的に産生されるのが、尿酸です。
尿酸は、腎臓で100%ろ過されます。ところが、そのまま100%が排出されるわけでは
ありません。尿酸は老廃物であるにもかかわらず、尿細管で「再吸収」されるのです。
腎臓にたどり着いた尿酸のうち、最終的に排出されるのはわずか10%程度にすぎません。
つまり、90%は体に戻っていきます。
尿酸が体液中に溶ける限界量は7mg/dLとされます。この数値を超えると、尿酸がたまって
結晶化が進み、結晶化した尿酸への炎症反応である痛風発作の可能性が高まります。
この状態を高尿酸血症と呼びます。つまり、痛風予備軍です。
◆1日2リットル以上の尿量を目安に水分を摂る
尿酸の排せつを促すためには、水分摂取が重要です。痛風は、腎臓と深いかかわりがある
からです。腎臓が尿酸を排せつする力を「尿酸クリアランス」と呼びますが、これは尿量と
比例関係にあります。
尿中の尿酸は、水を多く飲むほど薄くなりますから、腎臓の結石はできにくくなり、
その意味では良い影響が期待できるでしょう。ところが、いくら水を飲んでも、一定の
ラインを超えると、尿酸を排せつする力は横ばいになり、それ以上は増えません。
3リットル、4リットルの水を飲んでも効果は同じということです。
◆尿酸値を下げるための生活習慣
アルコール自体が、体の中で代謝されるときに尿酸の産生を助けたり、尿酸を排出しにくく
したりする働きを持っています。いずれにせよ、飲酒自体を控えめにすることが何より大切
です。
酸性化に働く食物(肉類など)を食べると、尿は酸性に傾き、アルカリ性の食物(海藻、野菜
など)を食べれば酸性に行きにくくなる。尿を中性に傾けるためには、食事でアルカリ化
食品を補うと良い。アルカリ化食品はプリン体もあまり含まない上、低カロリーなので
ダイエットにも向いている。
太っている人は、まずは食事でカロリーを減らすことです。ただし、急激なダイエットは
避けてください。過度に食事を制限すると、ブドウ糖の代わりに体脂肪がエネルギーとして
使われるようになり、「ケトン体」という物質が生じます。血液中のケトン体濃度が高まると、
尿酸をくみ上げて再吸収してしまうのです。安易に「早くやせよう」とは思わないことです。
また、激しい筋肉トレーニングなどの無酸素運動を行うと、乳酸がたくさん産生され、
尿酸の排出を妨げる(=尿酸値を上げる)といわれています。
ウオーキングやランニングなどの有酸素運動がお勧めです。
(2014年11月24日 日本経済新聞)