大人になっても、頭は良くなりますか?
「もちろん、イエス! 年をとったほうが断然、頭は良くなる」。
うれしいことに、脳科学が専門の諏訪東京理科大学・篠原菊紀教授の答えはため息も吹き
飛ぶほどに明快だった。
篠原教授によると、頭の良さには大きく「流動性知能」と「結晶性知能」があるという。
流動性知能とは、計算力や暗記力、集中力、IQ(知能指数)など、いわゆる受験テクニック
に反映されるような知能のこと。この知能は18~25歳くらいがピークで、その後は徐々に
落ちていき、40代以降になるとガクンと低下する。
一方、結晶性知能は知識や知恵、経験知、判断力など、経験とともに蓄積される知能のこと。
こちらは年齢とともにどんどん伸びて、60代頃にピークを迎える。
そもそも、子供の脳と大人の脳では記憶の仕方が異なっており、その変化は思春期の頃に
起こるという。「子供の脳は“単純記憶型”で、言葉や数字の並びをそのまま覚えようと
思えば、割と簡単に覚えられる。ところが、思春期以降、記憶の仕方は“自我密接型”ヘと
変わっていく」と篠原教授。つまり、自分が納得できること、役に立つこと、意味のある
ことが優先的に頭に入ってくるようになり、丸暗記自体が難しくなる。
ただし、筋道だって理解する力はグンと伸びる。
ただし、流動性知能もトレーニングをすれば、年をとっても伸ばすことは可能だ。
しかも、「やればできる!」と思っている人ほど伸びるという。
これとは反対に「できない」と思っていると、本当にできなくなる。
◆“経験知”は好奇心とともに伸びる
結晶性知能は年齢とともに伸びていくが、それは単なる知識や経験の足し算ではなく、
ある時点で飛躍的に伸びるものだという。例えば、仕事でも新人の頃はひたすら知識と
経験を増やしていくしかないが、ある程度それらが増えると、「あの情報とこの情報が
つながる」とか、「そういうことだったのか!!」と目からウロコの体験が増えて、
一個一個の知識が連動し始める。その結果、理解力が増したり、いいアイデアが生まれ
たり、判断力に磨きがかかったり、マネジメント能力が向上したりする。
そして、そのような知識の連動に伴って脳内で起こるのが、ドーパミンという神経伝達
物質の増加だ。「ドーパミンは達成感や快感をもたらす。言ってみれば、できるビジネス
パーソンほど仕事がおもしろい、ということになる」。
これは脳細胞でも同じことが言える。年齢とともに脳細胞自体の数は減っていくが、
頭を使えば使うほど、つまり結晶性知能が伸びれば伸びるほど、脳細胞の分枝が増えて
ネットワークが密になる。
要するに、やる気や面白さを感じながら頭を使うと、効率よく頭が良くなるわけだ。
結晶性知能は年齢とともに伸びる。ただ、そうはいっても、ただ漫然と年を重ねている
だけでは、伸びるものも伸びない。大人になっても頭を良くしていきたいなら、とにかく
頭を使うことだ。仕事だけでなく、趣味や遊びも大事。将棋でも、マージャンでも、読書
でもなんでもいい。やる気や快感を持って取り組めるものなら、もっといい。
このほか、有酸素運動も脳にいい。特に、知的活動を組み合わせた「デュアルタスク」の
有酸素運動が効果的だという。例えば、歩きながらしりとりをするとか、ジムで自転車
エルゴメーターをこぎながら計算をするなど、運動しながら頭を使うわけだ。
また、食事も重要で、緑黄色野菜や魚(特に青魚)をしっかり取るといいそうだ。
大人になっても、頭が良くなる“伸びしろ”は大きい。あなたの頭もまだまだ発展途上。
これからもどんどん伸ばしていこう!
(2014年11月3日 日本経済新聞)