実際には音がしていないにもかかわらず、何かが聞こえるように感じる現象が
耳鳴りだ。
■起きる場所不明
私たちの聴覚は、空気の振動である音を耳の鼓膜でひろい、中耳によって
内耳に伝えられる。内耳には蝸牛(かぎゅう)という器官があり、音の振動は
ここから神経を通って信号として脳に送られる。耳鳴りは鼓膜から脳まで
音が伝わるルートのどこかで起こるが、なかなか場所を特定できないため、
治療が難しい。
目白大学耳科学研究所クリニック(さいたま市)院長の坂田英明さんは
「まずは、中耳や内耳の原因を解消すること」と話す。
検査で突発性難聴やメニエール病などと診断されることもあるが、多くは
原因不明。ただし、耳鳴りを抱える患者の8割から9割に一定の難聴が
みられることは分かっている。
そこで内耳の炎症を鎮めたり、代謝を改善する薬物治療をしたりする。
低血圧などの循環器疾患やメタボリックシンドローム、毛染め剤など
化学物質に対する過敏症状など内耳に影響を与え難聴の原因となる
基礎疾患へのケアも欠かせない。
ただ、内耳へのアプローチで効果が得られるのは半数ほど。
そのことが「耳鳴りは治らない」とされてきた大きな理由だ。
しかし、最近では、大脳など中枢神経の関与が大きい耳鳴りが少なくないと
考える専門家も増えてきた。
■加齢変化も一因
JCHO東京新宿メディカルセンター(東京都新宿区、旧東京厚生年金病院)
耳鼻咽喉科部長の石井正則さんは「誰でも20代以降、少しずつ耳の聞こえは
低下しはじめ、早い人では40代から加齢性難聴の兆候を示しはじめる。
このとき脳は足りない音を補おうとし、その音を耳鳴りと感じる場合がある」
と話す。
この中枢性の耳鳴りの特徴は、ストレスの影響を受けやすいということだ。
近年、脳内には中枢性自律神経ネットワーク(CAN)という領域があり、
強いストレスを感じるとCANが興奮。脳内で生まれた音に敏感に反応する
ようになり、耳鳴りを不快に感じるようになると考える専門家が増えてきた。
耳鳴りは強いストレスをもたらすので、さらにCANが興奮するという
悪循環をもたらす。
そのため、中枢性の耳鳴りには心理面でのサポートが欠かせない。
こうした患者さんには、CANの興奮を静めるために十分な睡眠をとることや、
水泳やウオーキングなどの有酸素運動をするよう生活指導をしていくとともに、
症状に応じて副作用の少ない抗うつ薬、抗てんかん薬を用いることで、
日常生活に支障がない程度まで症状を改善できることも多いという。
このほか耳鳴りの治療には、原因となる難聴に対する補聴器治療や耳鳴りに
対する過敏反応を和らげるTRT(耳鳴り再訓練療法)など、治療の選択肢は
増えてきた。あきらめずに自分にあった専門家を見つけることが重要だ。
■1週間以上続くときは検査を
大音量のコンサートの後などで、耳鳴りが続くこともよく経験する。
目白大学の坂田さんは「症状が1週間以上続いたら、精密検査のできる病院の
耳鼻咽喉科を受診してほしい」と話す。まれにだが、聴神経腫瘍などの病気が
隠れていることがあるからだ。
また突然、耳がつまった感じや耳鳴りがして、片方の耳の音の聞こえが
ひどく悪い場合は、突発性難聴の恐れがある。すぐに治療を開始する必要が
あるので、大至急受診することが必要だ。
このほか、家族の声の聞こえ方が違う。好きな音楽が違って聞こえると
いった聞こえの異常を感じたときも、耳鼻咽喉科に相談してほしい。
(2014年6月21日 日本経済新聞)