五三 細殿に人とあまたゐて (66) 2018.7.2
細殿に人とあまたゐて、ありく者ども、見やすからず呼び寄せて、物など言ふに、清げなるをのこ、小舎人童などの、よき包み、袋に、衣ども包みて、指貫の腰などうち見えたる。袋に入れたる弓、矢、楯、細太刀など持てありくを、「誰がぞ」と問ふに、ついゐて、「なにがし殿の」と言ひて行くは、いとよし。けしきばみやさしがりて、「知らず」とも言ひ、聞きも入れでいぬる者は、いみじうぞにくきかし。
◆◆
細殿に、他の女房とたちと大勢で座っていて、そこを通る者たちを、みっともないのもかまわずに、(女房が声かけるのは不体裁)呼び寄せて、話などするときに、きれいな様子の召使の男や、小舎人童などが、立派な包みや袋に、着物などを包んで、指貫の腰紐などがちらっと見えているのは、おもしろい。袋に入れてある弓、楯、細太刀などを持って歩きまわるのを、「どなたのか」と問うと、ひざまづいて座って、「某殿ので」と言って行くのは、たいへんよい。気取って恥ずかしがって「知りません」と言ったり、聞き入れもしなかったりして去っていく者は、ひどにくらしいものだ。◆◆
■細殿=中宮定子は登華殿にいたので、ここは登華殿の西廂をさすか。その前は清涼殿への通路に当たる。
五四 月夜にむな車のありきたる (67) 2018.7.2
月夜にむな車のありきたる。清げなる男のにくげなる妻持ちたる。髭黒ににくげなる人の、年老いたるが、物語する人のちごもてあそびたる。
◆◆月夜に空の牛車が動き回っているの。きれいな男が不器量な妻を持っているの。髭が黒々として不器量な男で、年とっているのが、片言をいう幼児をあやしているの。どれも似つかわしくないものだ。◆◆
■むな車=人の乗らぬ空の車。一説、荷車。
■人のちご=「人のちご」(幼児)で一語。
■この一段は、明らかに「にげなきもの」の続きであろうが、この位置にあるのは不審。
細殿に人とあまたゐて、ありく者ども、見やすからず呼び寄せて、物など言ふに、清げなるをのこ、小舎人童などの、よき包み、袋に、衣ども包みて、指貫の腰などうち見えたる。袋に入れたる弓、矢、楯、細太刀など持てありくを、「誰がぞ」と問ふに、ついゐて、「なにがし殿の」と言ひて行くは、いとよし。けしきばみやさしがりて、「知らず」とも言ひ、聞きも入れでいぬる者は、いみじうぞにくきかし。
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細殿に、他の女房とたちと大勢で座っていて、そこを通る者たちを、みっともないのもかまわずに、(女房が声かけるのは不体裁)呼び寄せて、話などするときに、きれいな様子の召使の男や、小舎人童などが、立派な包みや袋に、着物などを包んで、指貫の腰紐などがちらっと見えているのは、おもしろい。袋に入れてある弓、楯、細太刀などを持って歩きまわるのを、「どなたのか」と問うと、ひざまづいて座って、「某殿ので」と言って行くのは、たいへんよい。気取って恥ずかしがって「知りません」と言ったり、聞き入れもしなかったりして去っていく者は、ひどにくらしいものだ。◆◆
■細殿=中宮定子は登華殿にいたので、ここは登華殿の西廂をさすか。その前は清涼殿への通路に当たる。
五四 月夜にむな車のありきたる (67) 2018.7.2
月夜にむな車のありきたる。清げなる男のにくげなる妻持ちたる。髭黒ににくげなる人の、年老いたるが、物語する人のちごもてあそびたる。
◆◆月夜に空の牛車が動き回っているの。きれいな男が不器量な妻を持っているの。髭が黒々として不器量な男で、年とっているのが、片言をいう幼児をあやしているの。どれも似つかわしくないものだ。◆◆
■むな車=人の乗らぬ空の車。一説、荷車。
■人のちご=「人のちご」(幼児)で一語。
■この一段は、明らかに「にげなきもの」の続きであろうが、この位置にあるのは不審。