永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(301)

2009年02月17日 | Weblog
09.2/17   301回

【野分(のわき)の巻】  その(12)

 それから源氏は東の御殿(花散里)へ参られますと、老女房たちが大勢で裁縫をしておりました。いよいよ寒さに向かう折から、細櫃に真綿を掛けて引き伸ばしている若い女房もおります。源氏は、

「中将の下襲か。御前の壺前栽の宴もとまりぬらむかし。かく吹き散らしてむには何事かせられむ。すさまじかるべき秋なめり」
――これは夕霧への下襲ですか。清涼殿の御前の植え込みを賞でる御宴は、取りやめになるでしょう。こんなに吹き荒れては何ができましょう。きっと今年は趣のない秋になりそうですね――

 こういう方面では、花散里は、紫の上以上の才能がおありのようで、何の衣でしょうか色々の染色の色彩がたいそう綺麗です。

 一通り、女方をお見舞いになって、源氏はご自分の御殿にお帰りになりました。夕霧は気骨の折れる方々をお訪ねになるお供をして、どっと疲れが出てご自分で書きたいお文なども後回しになさったのでした。

 花に譬えれば紫の上は樺桜、玉鬘は山吹、明石の姫君は藤の花、と夕霧はそれぞれを思い合わされ、父上が朝に夕にこのような美しい女方をご覧になって暮らしておられ、自分には隔てを厳重に置かれていることと思いを重ねられて、

「まめ心もなまあくがるる心地す」
――生真面目な夕霧のお心も何となく浮き浮き動き出しそうな気がします――

◆細櫃(ほそびつ)=細長くて小型の唐櫃(からびつ)

◆壺前栽(つぼせんざい)=中庭に植え込んだ草木

ではまた。