永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(297)

2009年02月13日 | Weblog
09.2/13   297回

【野分(のわき)の巻】  その(8)
 
 源氏は、小声で紫の上に、

「中将の朝けの姿は清げなりな。ただ今はきびはなるべき程を、かたくなしからず見ゆるも、心の闇にや」
――夕霧の朝の姿は、なかなか綺麗だな。まだほんの子供なのに、見苦しくない一人前だと思うのも、親の目の迷いだろうか――

 とおっしゃりながら、源氏は、

「わが御顔は、旧り難くよしと見給ふべかめり。いといたう心げさうし給えう」
――自分の顔は昔のまま、相変わらず美しいと眺めていらっしゃるようです。(中宮の御殿へお伺いのため)たいそう念入りに身なりを整えていらっしゃる――

源氏は、紫の上にお話しになります。

「宮に見え奉るは、はづかしうこそあれ。何ばかりあらはなるゆゑゆゑしさも、見え給はぬ人の、おくゆかしく心づかひせられ給ふぞかし。いとおほどかに女しきものから、気色づきてぞおはするや」
――中宮にお目にかかるのは、気を使うのです。これといって勿体ぶった御様子をお見せになるわけではありませんが、何となく奥ゆかしくて、ついこちらが心を使うようになるのです。たいそうおとなしく、女らしくいらっしゃるのですが、こちらはうっかり出来ないのですー―

 とおっしゃって、お部屋をお出になりますところに、夕霧がうっとり物思いにふけっていて、源氏がおいでになったことにも気付かずに居られるのを、勘の鋭い源氏にはどう、お映りになったことでしょう。ちょっと引き返して、紫の上に、

「昨日の風のまぎれに、中将は見奉りやしけむ。かの戸の開きたりしによ」
――昨日の暴風騒ぎに、夕霧はあなたをお見上げしたのかも知れない。あの戸が開いていましたからね――

ではまた。