永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(310)

2009年02月26日 | Weblog
 09.2/26   310回

【行幸(みゆき)の巻】  その(8)

 源氏は「それには、仔細がありまして、つまらない世間にあるような話ですし、夕霧にさえも詳しくは聞かせて無いのです。」

「『人にも漏らさせ給ふまじ』と、御口かため聞こえ給ふ」
――「決して他に漏らさないでください」と固く口止めされます――

 内大臣邸では、源氏が三条の大宮のところへお出でになっていらっしゃるとお聞きになって、

「いかに淋しげにて、いつくしき御さまを待ちうけ聞こえ給ふらむ。御前どももてはやし、御座ひきつくろふ人も、はかばかしうあらじかし」
――どんな見すぼらしい有様で、源氏ともあろうご立派な方をお迎えになったことだろう。前駆(さき)の人々を御もてなししたり、御座所を整えたりする人も少なかったであろうに――

 と、すっかりうろたえなさって、御子の君たちや、内大臣家に親しい然るべき殿上人たちをお遣わしになります。「御くだものや、大御酒など、しかるべく差し上げるよう。私が伺うのは大げさのようだから」と、おっしゃっている時に、大宮から御文がありました。それには、

「(……)対面に聞こえまほしげなる事もあなり」
――(源氏の大臣がお出でになっていますが、こちらはご用意も体裁わるく、困っております。あなたを呼び寄せたという風ではなく、大げさでないようにしてお出でください)源氏の大臣が、あなたにお会いした上で、お話なさりたい事がおありのようですから――

 内大臣は、何事であろうか、雲井の雁の事で、夕霧が訴え出てでも来られたのだろうか。大宮もこうして余命いくばくかの御身で、二人の仲を許すように言われ、源氏も穏やかに一言でも「可哀そうではないか」とおっしゃるなら、これ以上反対はできまい。良い折があったならば、源氏のご希望に添うようにして、許してしまおう、と、お思いになります。

が、

「御心をさし合わせて宣はむ事と思ひより給ふに、いとどいなび所なからむが、またなどかさしもあらむ、とやすらはるる、いとけしからぬ御あやにく心なりかし」
――源氏と大宮が企んで言われるのではないかと想像しますと、反対はできないものの、またどうしてそうしなければならないかと思い、気持ちが萎えてしまわれるのは、内大臣も実に困った、ねじけた御心でいらっしゃる――

 とにかく、お二人がお待ちなので、ご装束を整えられて大急ぎでお出かけになったのでした。

◆いなび所=否ぶ、承知しない、断る

ではまた。