永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(311)

2009年02月27日 | Weblog
 09.2/27   311回

【行幸(みゆき)の巻】  その(9)

 君達を大勢引き連れて、三条邸に入られる内大臣のご様子は、

「ものものしうたのもしげなり。丈だちそぞろかにものし給ふに、太さもあひて、いと宿徳に、おももち、あゆまひ、大臣といはむに足ひ給へり」
――重々しく頼もしげで、背も高くいらっしゃって、肉付きもそれに相応しく貫録も備わり、顔つき、歩きぶりもすべて大臣というに十分でいらっしゃる――

御装束は、
「葡萄染の御指貫、桜の下襲、いと長う尻ひきて、ゆるゆるとことさらびたる御もてなし、あなきらきらしと見え給へる」
――葡萄染(えびぞめ)の御指貫(おんさしぬき)、桜の下襲(したがさね)の裾(きょ)を長く引いて、ことさらに取りすましてゆるゆると歩いて来られますのが、ああ何ときらびやかな、と思わせます――

一方、源氏は、

「桜の唐の綺の御直衣、今やう色の御衣ひき重ねて、しどけなきおほぎみ姿、いよいよたとへむものなし」
――桜の唐渡りの、綺(き)の御直衣に紅の御衣(おんぞ)を幾枚も重ねられた、くだけた親王らしいお姿が、たとえようもないほど美しい――

 内大臣のご子息も皆お美しく、お人柄が派手で立派な方々が十人以上集まられ、盃が幾度も巡るうちに、みな酒に酔っては、大宮の優れた徳を話題にし合っています。内大臣も久しぶりに源氏にお逢いになって昔のことを思い出しておられるようです。

「よそよそにてこそ、はかなき事につけて、いどましき御心も添ふべかめれ、さし向ひ聞こえ給ひては、かたみにいとあはれなる事の数々思し出でつつ、例の隔てなく、昔今のことども、年頃の御物語に、日暮れゆく」
――お互いに離れている時には、一寸したことにも負けじ魂が生じますが、こうして指し向いでお話しになっていますと、お互いにあはれ深い思い出のあれこれに話題も尽きず、過ぎ去った日の事、今の世の事、と次々にお話がはずむうちに日が暮れていきます――

◆宿徳(しゅうとく)=観音経に「宿植徳本」とあり、前世に植えた徳に今の世の光華があること。

◆ゆるゆるとことさらびたる=ゆったりと改まった

ではまた。