永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(129)

2008年08月07日 | Weblog
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【蓬生(よもぎう)】の巻  その(4)

 さて、この末摘花の御母の妹で、叔母に当たる方が、今は受領の北の方に身を落としておいでで、娘たちを多く持っていて大切に育てておりますが、かしずいてくれる女房を探しております。侍従は時折そちらへ行っていますが、末摘花は人に馴染まないご気質なので、この叔母からも睦まじくはお便りもなさらない。

叔母は、
「おのれをばおとしめ給ひて、面伏せに思したりしかば、姫君の御有様の心苦しげなるも、えとぶらひ聞えず、など、なま憎げなることばども言い聞かせつつ、時々聞えり」
――故姉君(末摘花の御母)は、私を軽蔑なさって、私のことを何か御自分の恥だとでも思っておられたましたから、姫君(末摘花)の御有様がお気の毒そうなのも、お見舞い出来ないのです、などと、面憎いような言葉も侍従には聞かせながら、それでも時々は、文は差し上げるのでした――

 もともと受領のような身分に生まれついた人は、かえって高貴な人の真似に気をはって、偉そうにするものが多いのですが、この叔母は、尊い家柄に生まれながら、こうまで成り下ってしまう宿縁があったからでしょうか、少し心の下品な人なのでした。

又、叔母は、
 「わがかく劣りのさまにて、あなづらはしく思はれたりしを、いかでか、かかる世の末に、この君を、わが娘どもの使い人になしてしがな……」
――自分がこうした賤しい身で今まで軽蔑されたのですから、これほどに姫君が落ちぶれた今こそ、どうにかして自分の娘たちの召使いにしてやりたい、(娘に琴でも教えに来てください、と申し上げてみますが、内気な末摘花は一向に親しもうとはなさらないので、なおさら憎らしく思うのでした。)――

◆身分制度で、固められていた社会では、受領は中流階級に属していた。上流貴族は、天皇の血筋を持った、親王、内親王と縁組みのできた人たちで、やむごとなき身分とされた。一方で、この叔母のように受領の妻になることは、上流貴族からは貶められることでもあったが、受領階級からすれば、良い血筋の姫君を得たことになる。

◆写真は末摘花、鼻の先が赤いお姫様。

ではまた。



源氏物語を読んできて(貴族の生活と財政・天皇と貴族)

2008年08月07日 | Weblog
◆天皇の家政
 
 天皇には、妻妾に当たる中宮をはじめとする後宮にも、子供の親王たちにも、俸禄が与えられる。天皇の日常は公的な面が多いので、天皇家の家政に参与する職員も国から俸禄を得ているが、天皇個人の生活や、天皇個人の催す諸行事は、国庫とは別に天皇家のものともいうべき財源でまかなわれる。

 官田、御厨、勅使田からの収入は天皇家のものであった。
 
 天皇家の家政の管理は、内務省(なかつかさしょう)と宮内省に属するが、実際には蔵人所(くろうどどころ)を中心に運営されている。
台盤所、内侍所など、内裏の中で「所」という名が付いている部署は天皇家の家政。
 
◆貴族の家政
 天皇家の家政機関を、摂関などの貴族の家でも模倣して、同じ名を付けて運営している。
 「政所」とは、家政を司る所で、長官を別当(べっとう・べとう)といい、その下に家司(けいし)がいる。
 「納殿」は、絹、真綿、布、錦、綾、金銀財宝、舶来品を納める蔵。

参考:源氏物語手鏡