永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(136)

2008年08月14日 | Weblog
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【蓬生(よもぎう)】の巻  その(11)

 惟光が尋ねます。「こちらの姫君が昔のままでいらっしゃるなら、大将もお訪ね申されたいとのお志も絶えてはいらっしゃらないのですが…」

女房たちは笑って、

「かはらせ給ふ御有様ならば、かかる浅茅が原をうつろひ給はでは侍りなむや。……年経たる人の心にも、類あらじとのみ、めづらかなる世をこそは見奉り過ぐし侍れ、……」
――お変わりになるほどの御身ならば、この浅茅が原をお引き移りなさらずにはいましょうか。(ご推察のまま、殿に申し上げてください。)年老いた私どもでも、思い当たらない程の珍しい御貞節ぶりを、長年拝見してまいりました。――

 惟光は、これこれしかじかと源氏に申し上げますと、
「いみじうあはれに、かかる繁き中に、何心地してすぐし給ふらむ、今までとはざりけるよ、とわが御心のなさけなさも思し知らる」
――話をお聞きになった源氏は、たいそう可愛そうに思われ、こんな草深い中に、どのような思いで日を過ごしておられたことか。今まで訪れもしなかったとは、わが心のつれなさを、しみじみお悔やみになるのでした――

 源氏は、どうしたものだろう、こんな忍び歩きは度々は難しく、またの日ともいかないだろう。昔とおなじ独り身ならば逢ってみよう。たしかにそのような生真面目な姫君ではあったよ。とお思いになり、趣のある「うた」の一つも差し上げたいところではありますが、あの姫君の口の重さをお考えになって、お使いの者の、待ちくたびれるのも不憫と思われて、うたの口上はお止めになりました。

惟光が、
「さらにえ分けさせ給ふまじき、蓬の露けさになむ侍る。露すこし払わせてなむ、入らせ給ふべき」
――とても踏み分けて行かれそうにもない、ひどい蓬の露でございます。露を少しかき払わせてから、お入りになりますように――

◆写真:お屋敷の末摘花

ではまた。